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うずたかく積みあがった新聞にピアノ!
向井山朋子&ジャン・カルマンが
ベケットを題材にコラボレーション

8月10日、あいちトリエンナーレ2013が開幕した。2度目の開催となる今回からは、会場に岡崎が加わり、ますます県をあげての盛り上がりが予想される。そんな注目の岡崎地区、康生会場のショッピングセンター・岡崎シビコでは複数のアーティストが作品を発表。中でも強いインパクトを与えているのが、向井山朋子+ジャン・カルマン「FALLING」だ。世界的に活躍するピアニストの向井山と舞台美術家・照明デザイナーのカルマン。国際芸術祭への出品経験も豊富な両人は、共同制作で、ベケットを題材にインスタレーション/パフォーマンスを展開している。そこに託した想いや創作秘話など、ふたりが聞かせてくれた。

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向井山朋子(左)とジャン・カルマン。向井山の通訳で、インタビューは和やかに進行

向井山朋子はアムステルダムを拠点に活躍するピアニストだが、近年、ビジュアルアーティストとしても活動。また、昨年はダンス作品まで発表して多才ぶりを発揮している。対するジャン・カルマンは、ダンスや演劇、オペラの舞台美術、照明デザインを手掛けてきたベテラン。日本では、越後妻有トリエンナーレに出品された、クリスチャン・ボルタンスキーとのコラボ・インスタレーションでご存知のアートファンも多いだろう。

ふたりの共同制作による「FALLING」は、サミュエル・ベケットの戯曲「いざ最悪の方へ」から着想を得たインスタレーションでありパフォーマンス。今回のトリエンナーレが「揺れる大地―われわれはどこに立っているのか:場所、記憶、そして復活」というテーマを掲げていることから、パフォーミングアーツ部門では不条理劇で名高いベケットを取り上げるアーティストが多く、向井山とカルマンの作品もそのひとつに当たる。

向井山「報われない、不条理な世界ですよね、ベケットは。よく『どうして不条理なものを表現するのか』と尋ねられますけど、その時は必ずこう答えてるんです。『不条理は、人生に関わるすべてだから。この世に〈生と死〉の問題に関わらないものなんてあるんですか?』って」

会場である岡崎シビコの5階スペースに足を踏み入れると、まず膨大な量の新聞紙に圧倒される。湿気を帯びてか、クシャクシャ、シワシワの古新聞からは声なき声が聞こえてくるようで、異様な気配が漂う。さらに奥へ進むと目に飛び込んでくるのが、何台もの壊れたピアノだ。あるものは傾き、あるものは重ねて積み上げられ、まるでピアノの墓場。辺りには地鳴りのような音が響き、無人のピアノが曲を奏でたり、扇風機が回ったり、強烈にまばゆい光が差し込んだりする。

音楽家と照明家のコラボなので、サウンド面を向井山、ビジュアル面をカルマンが担当していると思われがちだが、明確な分業などしていない。実際、以前に体験したカルマン作品と通じるものを感じたのは、音の部分だった。

向井山「分けては全然やらないんですよ。お互い口も出し合いますし。例えば、今回は扇風機が置いてありますけど、あの動きはキーボードで私がプログラミングしてます。だから音楽的でもあるんですよ」
カルマン「ひとりの人間、個人から出てくるものなので、これまでの他の作品と通じる部分はあって当然ですよね。その上で今回、ビジュアルとサウンドが分かち難いものだと感じてもらえたなら嬉しい」
向井山「ちなみに、こちらに入って作業を始めてからわかったんですけど、この辺りはコウモリが出るんですよ。その音がすごいので、ピアノと一緒にコウモリの音も使ってます(笑)」


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壁のようにも積み上げられた古新聞の山


先にも述べたとおり「FALLING」はパフォーマンスでもあるので、やがて場内にはパフォーマーたちが現れる。特に、車椅子に乗った男の叫びは悲痛だ。
「全部、壊れちゃったよぉ」


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パフォーマーは一般公募で集まった市民。みなさん大熱演です!


カルマン「確固たるものじゃなく、危ういものを表現したい、そう当初から考えていたんです。何か落ちていくもの=『FALLING』を。そんな空間で、シネマだけが安全な場所になっています。そこから子どもたちが、フレームの向こうの様子を見つめているという……。この子どもの存在が重要。子どもたちは、時おり大人に問い掛けのような仕草を見せるんです」

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子どもたちがコワ可愛い!? マスクは十数種類あって、自分の好きなものをかぶっているんだとか

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このフレームは鑑賞者もまたいで行き来自由


「揺れる大地」というテーマは、言うまでもなく東日本大震災を契機に生まれたもので、向井山とカルマンの作品からも、どこか震災や津波のことがイメージされる。同時に、戦争のこと、原爆のことも思い起こされたのは8月だからか。日本において、8月は特別な時。誰もが亡き人を想い、悼む。そう考えると、古新聞から聞こえてきたのは死者の声――。しかし、向井山とカルマンの示したいものは、生の後の死という絶対的不条理だけでなく、そこからの再生、そして子どもたちの姿が象徴する未来だろう。

向井山「新聞って面白いメディアですよね。1ヵ月どころか、1週間前のことでも、もう過去になってるんですから」
カルマン「でも、必ずしも“過去”というだけではないんですよ。それは歴史であり、記憶とも呼べるものなんです」

なお、インスタレーションは国際美術展のチケットで鑑賞可。パフォーマンスは土日祝のみ、13時~15時30分のあいだ断続的に上演。




(8月13日更新)


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ART DATA

あいちトリエンナーレ2013

開催中 10月27日(日)まで
愛知芸術文化センター/名古屋市美術館/長者町会場/納屋橋会場/東岡崎駅会場/康生会場/松本町会場
あいちトリエンナーレ実行委員会事務局[TEL]052(971)6111
あいちトリエンナーレ入場券管理センター[TEL]052(952)7113

チケット情報はコチラ
http://ticket.pia.jp/pia/event.do?eventCd=1310813


あいちトリエンナーレ
公式ホームページ

http://aichitriennale.jp/


ぴあ中部版WEB
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