ホーム > インタビュー&レポート > 人の記憶から消えてしまう少女との瑞々しく切ない恋物語 映画「忘れないと誓ったぼくがいた」 堀江慶監督・村上虹郎インタビュー

人の記憶から消えてしまう少女との瑞々しく切ない恋物語
映画「忘れないと誓ったぼくがいた」
堀江慶監督・村上虹郎インタビュー

平凡な高校生と、出会う人の記憶から消えてしまう不思議な少女のファンタジックで切ない恋愛模様を描いた映画「忘れないと誓ったぼくがいた」が絶賛公開中だ。
日本ファンタジーノベル大賞受賞作家・平山瑞穂の同名小説を、幅広い表現分野で活躍する堀江慶監督が映画化。主人公である大学受験を控えた平凡な高校生・葉山タカシを演じるのは、第67回カンヌ国際映画祭コンぺティション部門出品作「2つ目の窓」の主役で鮮やかなデビューを飾った村上虹郎。出演3作目となる本作でも圧倒的な存在感を見せる。タカシが恋に落ちる美少女・織部あずさ役を務めるのは、NHK連続テレビ小説「マッサン」で注目を浴びた早見あかり。人の記憶から消えていく不思議な運命を背負った美少女という難しい役柄を、溢れんばかりの透明感をもって演じ上げた。主演ふたりのフレッシュかつ鮮烈な才能が光る作品だ。
記憶から消えてしまうという運命に立ち向かおうとする純粋な二人の姿や、記憶というものの尊さに胸を打たれる本作について、堀江慶監督と村上虹郎に話を聞いた。村上の独特な世界観に引き込まれるインタビューの様子をお届け!

――出会う人の記憶から消えていく運命を背負った少女との恋物語という複雑な設定の作品ですが、原作を映画化する際のポイントは何でしたか?
堀江監督「まず、『忘れる』という曖昧な事柄を映像化したかったというのがありました。その中で恋愛ストーリーはどうか?と企画が上がって、不条理で特殊なファンタジーの中で困難を作ってみようと。ファンタジーは現実味がなくなってしまう可能性があるので、普通の日常の一瞬一瞬にファンタジーな設定をさらりと入れていくような、リアルな演出を心がけました」

――ファンタジーというものに対する違和感を出さないようにということですか?
堀江監督「そうですね。織部あずさは人の記憶から消えてしまうけど、何故そうなったかは分かりませんと言い切って物語を始めた方がテーマが明確になると。忘れるということ自体は普遍的なことなので、身近なものとして受け取ってもらうためにも最初に言い切ってしまおうと考えました」

――最初に脚本を読まれた時、村上さんはどんな印象を受けましたか?
村上「最初に読んだ時は、この話をどう映像化するんだろう?というのがありました。葉山タカシという役はどこにでもいそうな平凡な男子高校生なんですが、素朴で優しい良い子なんですよね。どんな人間も短所や長所があって、みんながそれを伸ばそうとしたり、逆にコンプレックスを隠そうとしたりするじゃないですか。でもタカシはそういう部分があるんだろうけど見えてこなくて。むしろ何も無いように見えるから、逆にキャラクターが際立つんです。そこがいいなって」

――原作も、忘れるということに関しては特に説明がないまま終わりますよね。
堀江監督「実は台本では、ラストシーンの先にもう少し続きがある予定だったんです。実際に撮影もしたんですけど、そこを付けてしまうとすっきり終わりすぎてしまうなと。例えば昔付き合っていた人がいたとして、当時は夢中だったのにいつの間にかその人のことを忘れてしまうことってあるじゃないですか。そういう普遍的な『忘れる』ということに対して葛藤している時の衝動を形にしようと。あえて結論を出さず、衝動で終わらせようというのが映画のラストシーンに現れています」

――あえて答えを出さないことで、伝えたいことがあったんですね。
堀江監督「好きな人への気持ちとか、やがて忘れてしまうようなことでも、覚えていようとしたことは刻まれているんです。記憶に残ろうが残っていなかろうが、その人と関わった時間だけは確かに存在するし奪えないんだよということが、原作から続くテーマですね」

――主役に村上さんを選んだポイントは何でしたか?
堀江監督「『忘れる』ということを受け入れるのは難しいと思うんです。その点で、今回はリアクションが勝負になると思って。忘れてしまった時の表情だったりリアクションだったり、人によっては面白くない芝居になっちゃうだろうなと。虹郎くんと会って、嘘がなくて素直な子だと感じたんです。きっとこういう現象に遭遇した時に、自然に受け入れてくれそうだなと。素直で真っ直ぐな彼しかいないんじゃないかなと思いました」

――実際に演じられてみて、タカシにはご自身の性格が現れていると思いますか?
村上「タカシの無意識なリアクションには、自分の癖が映像に残っていると思います。でもタカシはあくまでもタカシなんですよね。それが一番分かりやすいのが、映画のポスターの顔と自分の普段の顔が全然違うこと。動き方も全然違うし、姿勢も呼吸も違うんですよね。性格とかは案外似ているのかもしれないですけれど、呼吸が違うだけで人が変わるというのがすごく面白いなと思いました」

――完成した作品を初めてご覧になった時の感想はどうでしたか?
村上「さっき監督が話してたように、ラストシーンが急に変わったんですよね」
堀江監督「撮影したけど、編集でカットしたんです」
村上「もちろんそのシーンが最後に来るんだろうなと思いながら見てたら、『あれ、終わった!』って(笑)。どういうこと?って」
堀江監督「怒ったんですよね(笑)」
村上「怒ったんじゃなくて、映像として見たかったっていうのがあって。どういうことなんだろう?っていうのを整理できなかったんですよね。自分が考え抜いて演じたものなので。でもやっぱり役者の葛藤と、作品全体の監督としての葛藤は違うので。お互いが全部納得し切れる事って絶対ないと思うし。そこを整理するのに時間が必要でしたね」

――ラストが変わったことについて、今ではどう思われますか?
村上「自分としてはそう思ったというだけで、ストーリーとしては今の方がいいんです。答えが出ないことが想像力をかきたてるし」
堀江監督「見てもらって、いろいろ想像してもらえたら嬉しいですね」

――ヒロイン役に早見あかりさんを起用した理由についてはいかがですか?
堀江監督「あかりちゃんは、とにかく悲観的にならない子というか。理由もなく人の記憶から消えていくという目にあっても前向きでいられるところを表すには、裏がある子では絶対ダメだなと思って。女の子っぽい女の子より、サバサバした裏表がない子がいいなと。そういう意味では、主演のふたりは似ているんです。あと、いい意味で子どもっぽさがあると思うんですよね。これが大人だと、あずさの状況について全部深刻に考えてしまうと思うので、そうじゃない部分を出せるかなと。主演のふたりは、誕生日も血液型も一緒なんでいろいろ似てますよ。年齢は2歳差だけど、本当偶然だなって」

――お互い似ているなと思う部分はあるんですか?
村上「姉弟といる感覚に近いかもしれないです。自分のだらしない部分も普通に言い合えるし。あかりん(早見あかり)と会話した内容って全く覚えてないんです。例えば、家族でいる時になんとなく交わした言葉ってあんまり覚えてないじゃないですか。そういう感覚に近いと思います」

――人の記憶から消えていく少女と恋に落ちるという、現実に起こりえないようなファンタジックな物語を演じる上で、苦労された点はありますか?
村上「本来、生きていて人と人が関わる時には『出会い』があるんですが、この作品では織部あずさと会うたびに毎回“出会う”んです。あずさに関する記憶が消えていってしまうので。逆に考えると、『何回も出会えるなんてよくない?』って思うんです。だって、飽きないわけじゃないですか。だけど飽きないということは、なかなかお互いのことが分かり合えないことでもあるんです。タカシとあずさはすごく純粋だから、お互いに気持ちをぶつけ合えるけど、そこがうまくかみ合わない。お互いにピュアだからこそ傷つくんです。その部分が、タカシの気持ちを考えるとすごく難しかったです」

――撮影中など、印象的な出来事はありましたか?
堀江監督「一番印象的なのは、『他の人間が織部あずさを忘れても、自分だけは大丈夫』と思っていたタカシが、ふとした瞬間にあずさに関する記憶がなくなっていることに気づくシーンですね。大切な人を忘れるという出来事が初めて自分の身に降りかかる時のリアクションがとても大事だと思っていて。その時の心情が、お客さんに伝わるように反応しないといけない。最初のリハーサルをやった時はリアクションが小さかったんです。なのでもう少し強く分かりやすく、ただ伝え方を間違えるとリアクションが過剰になってしまうという時に、『もう少し濃い目に』と言ったら『オッケー』とさらっとやってくれた表情がもう理想どおりで。全幅の信頼というか、これからはそんなに細かいことを言わなくても感じるままにやってくれればいいかなと思った瞬間でした。あれはびっくりしましたね」

――フレッシュな主演のふたりを起用された感想はいかがでしたか?
堀江監督「ふたりとも自由で素直なので、『こうした方がいい』と思うことがあったらそれを全部やってくれるんです。今の若い子って“良い子”というか、変に納得して理解しちゃう子が多いんで、そうじゃないようにしようと思ったし、逆に僕が全部コントロールしようと思ったら絶対駄作ができるなと。基本的には彼らの出したものを受け止めようと。作品について深く考えてやってほしいとは言いましたけど。勝手なんだけど、最終的にはそれをやってくれるふたりだったから、なんだか貴重でしたね。本当このふたりでよかったなと思いました」

――勝手というのは、具体的にどういうことですか?
堀江監督「納得してない場合、しっかり顔に出すんですよね。僕が求めることをちゃんと受け入れてくれつつ、これがいいとかこう思うということをしっかり変えてくる。けど、いろいろ変えても怒られるんですよ(笑)。同じ動きしてくれないし、撮影する側は大変だったと思いますよ」
村上「初めての作品(デビュー作『2つ目の窓』)の時、河瀬直美監督に『そこにただ生きていればいい』と言われたんです。映画の中で『ただ生きている』ということ自体が難しいし、もっと掘り下げると、絶対入れなきゃいけない動きや台詞はあるとしても、同じシーンでも前にやった芝居と次にやる芝居が全く一緒というのはありえないでしょう?って。『なんで前の芝居と目線が同じなんだ』って、撮るたびに毎回言われてましたから。それはつまり、あなたそこに生きてないでしょうって。でもその一方で、あえて動きや目線を作りこんでキャラクターを演じ上げることも芝居だと思うんです。今回は演出方法が根本的に違ったというか。河瀬監督のやり方しか知らなかったから、毎回動きが違ってていいんだって思ったのですけど、このカットでは毎回必ず同じ動きをしてって何度か言われたりして」
堀江監督「そういうことを踏まえつつ、河瀬監督が仰る方法に落とし込んでいくのがいいですね。両方の術を持っていないと、先が難しいだろうから。一回、リハをしたくないって言ったことがあったんですよ。何を言っているんだと(笑)。照明さんとかカメラさんとか、みんながお前のためにしっかり準備して素晴らしいものを撮ろうとしてるんだから、やるんだよということを説明して。ここから始まるの!?って思いながら(笑)。それで納得してやってくれたんですけど、本当そこからすごくいろいろ変わっていったと思いますね」
村上「勝手というより、新人で分かってなかったってことなんですよ。自我を通すということではなくて、前作の方法しか知らなかったというだけで。監督が先生みたいな存在でしたね」

――村上さんは今作が3作目の映画出演とのことですが、芝居することや演じることについてはどう思われますか?
村上「映画の出演は3作目ですが、ドラマなども含めると撮影を終えているのはいくつかあるんです。デビュー作で初主演をした時に、自分は何者なのか撮影が終わってから分かるかもしれないって親父(俳優・村上淳)に言われたんです。最初の時は好奇心もあったのですが、終わった後に、演じることを続けようと思ったのは何でだろうって考えたら、一番は撮影の現場が好きだから。それは楽しいからじゃなくて、本当に辛いんだけど、自分で選んだ道で悩みがあるのは幸せなことだなって思ったんです。芝居が好きという感覚の前に、現場が好きだから続けてきた。今作も芝居の難しさをとても感じたんですけど、それだけじゃなくて芝居って何だろう?ってところにだんだん近づいてきたというか。やっとスタート地点まで歩いてきた感じですね。今作を経て、やっと現場が好きって感覚と芝居を好きになる感覚が近づいてきたなと思います」

――現場を好きになったきっかけはあるんですか?
村上「だんだん好きになってきた感じですね。映画やテレビ、CMやプロモーションビデオなどいろいろやってきて、全部同じ映像作品で、監督がいて役者がいてっていうのも一緒なのに、何が違うんだろうって。いろいろなジャンルの人とやってみて少しずついろんな世界を知っていく中で好きになっていった感じです」

――監督は、映画を作ることの一番の醍醐味は何だと思いますか?
堀江監督「本当に映画が好きなので、作品の最初から最後まで関われることですね。自分でエンドマークつけるまで。編集も大好きですし、全てが好きですね。技術だったら録音マンになりたかったくらいなので。今作では、主人公のタカシが将来映画監督になりたいと宣言するシーンがあります。タカシはスマートフォンであずさの映像をたくさん撮るんですが、彼女のことを残したいという衝動が、映画を撮りたいとか記録したいという衝動になるんですよね。『記録したい』っていうのは、出来事を留めるという機械的な記録もあると思うけど、そこにある感情も残したいという衝動だと思っていて。『感情を記録する』ということが映画だと一番大きいと思うんです。映画の中でスマホで撮った映像を見ると、ちゃんとした機材で撮るよりスマホで撮る絵の方が強かったりするんで、そういうのを見ると『結局映像は感情なんだよな』って思いますね。だから映画は素晴らしいなって」

――村上さんは、俳優のスタートラインに歩いてきたところだと仰るわりには、既にとても落ち着いた雰囲気をお持ちですね。俳優としての確信のようなものを、既に持っていらっしゃるのかなという感じがします。
堀江監督「取り繕ってないということだと思うんですけど、普通の人だったら気を遣っちゃうようなことも、全然気を遣わないで言うじゃないですか(笑)。そういう面も素敵だと思うんですよね」
村上「小手先のところで何やかんや考えたりとか、言い出せなくて恥ずかしいとか考えてる場合じゃないんだよってことかもしれません。そこにぶつかって超えていく。自分が欲しいと思うものに対しては、そこに向けて言動も行動も移すと思うし、言いたいことは言った方がいいと思うし。もちろんそれは周りの人を傷つけないように考えながらですけど。そういうのを多分、今までの人生の中でどこかのタイミングで見いだしたんですよね。母親(歌手・UA)も親父も世間的に表現者と呼ばれる人たちで、その影響を受けつつ、でもここまで影響されたら自分じゃなくなるんだろうなっていうこともあるし」
堀江監督「そうやって言うけど、言いたいこと言ってるだけですよ(笑)。でもそれはすごいことなんですよ。やっぱりみんな、言いたいことを言わないから」
村上「相手によるところもあります。免疫じゃないですけど、言いたいことを言われた相手が、それをどう捉えるか。それは結構繊細に考えるんです。その中であかりんは、全然大丈夫だった。言いやすさもあるし、伝わりやすいというか」
堀江監督「ふたりで会話してるのを聞いてると、オロオロしますよ。何を話してるのか全然分からないなって(笑)」
村上「例えば恋してる時って、視界や世界が変わった気分になるけど、面白いじゃないですかそれって。恋してる時としてない時でテンションも違って。二人の共通言語があるのに、その言葉を傍から聞くと、余計恥ずかしくなるとか。既にそこだけの共通言語が生まれてるわけです。それって恋だけじゃないと思うんですよね。すべてにおいてそうだと思うんです。仕事だろうと友情だろうと何でもそうだと思うんですけど。言葉じゃなくてもいいし」

――まだお若いながらも、俯瞰から物事を見ることができる方なんですね。
堀江監督「こういうのが間違ってる感じだとイラッときたりもするんですけど、彼やあかりちゃんが言うと自然に受け取れるというか。本当にそう思ってるからなんでしょうね」
村上「人と人ってどんなに歳が離れてても絶対リスペクトがあるから。疑問に思うことがあったら聞くじゃないですか。目上の人にも、もちろん敬語で聞きますし。人は対等っていうことなんですよね」
堀江監督「本心から出る言葉はブレないから。そういう意味では、出してくる演技のアイデアにもそういう主観がちゃんとあるから、耳を傾けようってなりますよね。独りよがりじゃないんです。若干どこ行ってるか分からないときはあるけど、理解できないと逆にこっちがまずいんじゃないかって気になるような。若い子を理解しないとって」




(3月30日更新)


Check

(C)2006 平山瑞穂/新潮社 (C)2015「忘れないと誓ったぼくがいた」製作委員会

Movie data

映画「忘れないと誓ったぼくがいた」

公開中
109シネマズ名古屋ほかにて

【オフィシャルサイト】
http://wasuboku.com/

[2015/日本/日活]
監督:堀江慶
原作:平山瑞穂
出演:村上虹郎/早見あかり/西川喜一/渡辺佑太朗/大沢ひかる/池端レイナ/ちはる/二階堂智/山崎樹範/ミッキー・カーチス

Story

大学受験を控えた高校生タカシは、織部あずさという美少女にひと目惚れし、デートを重ねるようになる。しかし彼女は「私に会った人たちは全員、私の記憶が消えていく」と告白。最初は信じようとしないタカシだったが、彼女の言葉はやがて現実のものとなり……。