ホーム > インタビュー&レポート > 映画「ヒメアノ~ル」 吉田恵輔監督・森田剛・濱田岳インタビュー 「近年まれに見るくらい生々しいのを 作ってやったぞという気持ちがあります」

映画「ヒメアノ~ル」
吉田恵輔監督・森田剛・濱田岳インタビュー
「近年まれに見るくらい生々しいのを
作ってやったぞという気持ちがあります」

「麦子さんと」「銀の匙 Silver Spoon」といった心温まる作品を多く手がけてきた吉田恵輔監督。(注:吉田監督の“吉”は、正式には“土吉(つちよし)”を使用) 彼の最新作「ヒメアノ~ル」は、そんなほのぼのとした作風からは一転、時に目を背けたくなるほどリアルなバイオレンス描写とハードさに満ちた物語だ。
古谷実による同名漫画を映画化した本作は、濱田岳演じるごく平凡な男・岡田と、森田剛扮する殺人犯・森田を軸に展開。岡田の平凡な日常と、凶行を重ねる森田の様子が同時進行で描かれる。岡田の日々に森田の影がじわじわ侵食していく過程がリアルな恐怖を生んでいく。その中に凶悪犯になった森田の悲哀もにじみ出て、恐ろしくも切ない気持ちになる作品に仕上がった。
そんな本作について、吉田監督と森田剛、濱田岳の3人に話を聞いた。

――監督の最近の作品とは正反対の、過激かつ衝撃的な内容ですが、手がけられた経緯は?
吉田監督「こういうハードで生々しいものは、自主映画時代に結構撮っていたんです。以前、梶井基次郎の短編小説『檸檬』のドラマ化を手がけたことがあって、それも今作のようなダークな感じの作品でした。今回話を持ってきてくれたプロデューサーは俺のそういう作品が好きで、そろそろそういう系統の映画が見たいって言うから、俺もそろそろやりたいなと」

――前半のハートウォーミングな日々の描写から、後半は一転して過激な展開になっていきます。
吉田監督「今回の原作には両方の要素がありますし、途中で話の印象を変えるというのをずっとやってきているので、どうせなら今までに無いくらい話がばっさり切り替わるものを作りたいと。なのでわりと計算して作ってましたね。前半のポップな部分と後半のダークな部分ではカメラの撮り方が違いますし、後ろにいるエキストラの衣装まで全部色づかいを変えています。前半のポップさが、森田の登場によって乗っ取られていくような、クロスしていく感じを意識しました」

――映画化に際してかなりアレンジを加えられたそうですが、ポイントとされたところは?
吉田監督「原作では、“森田”が抱える痛みが大きなテーマになっているんですが、それは大量のモノローグとものすごく丁寧な彼の心理描写がなされているからこそ描けることで。さすがに2時間弱の映画でそこにたどり着くのは難しいなと。かといって中途半端に描くと、中2病っぽいというか、寒い感じになってしまいそうだと思ったんです。なので、この漫画のテーマである部分をあえて外すことで、お客さんに委ねるというか。その分映画としてのエンターテインメント性を加えましたし、終わり方にしても、ある種のノスタルジーを感じるようなところに持っていきたい気持ちがあって、あのラストに繋がりました。それを原作のファンの方がどう思うか、楽しみであり怖くもありますね」

――濱田さん演じる岡田は、ムロツヨシさん演じる安藤のコミカルなかけあいが印象的ですが、演じる上で大切にされたことは?
濱田「なるべく普段喋っているような口語体で、台詞が台詞っぽく聞こえないように心がけました。あと、ムロさんがどんな球を投げてくるか分からないので、決め打ちでいくと球が取れないんです(笑)。そこはフレキシブルに演じていきました。演じたというより、皆に振り回してもらったという感じですね」

――受け身でいるというか、相手の出すものに都度反応していくことを大切にされたんですね。
吉田監督「彼は名キャッチャーですから。俺らが取れないだろうと思う球でも取りますからね(笑)」
濱田「ほぼストーリーの流れに沿って撮影していって、台本と同じ気持ちの流れになれたことにも助けられましたし、何より共演する皆さんの能力が本当に高くて。最後の方のシーンで“森田”と対峙する場面がありますが、人を襲っている森田さんの後ろ姿がもう怖かったんです。“森田”というキャラクターが研ぎ澄まされている感じがすごくして、役の岡田としてもショックでしたが、僕自身としてもかなり衝撃的な映像でした。あえて理解しようとしたり考えたりする必要がなくて、投げ手もすごいピッチャー揃いでしたね」

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――森田さんは、狂気的な人間・“森田”をどのように演じていかれましたか?
森田「表情については、監督から『口を空けて』という指示があり、だらしなく見えるような表情を意識しました。原作でもそうなんですが、“森田”は自問自答しているキャラクターなんです。ただ歩くだけのシーンでも、常にそのことを考えて演じていました。あと、最初は普通の奴なんですけど、殺人を重ねるにつれ最後にはコントロールが効かなくなっている感じは一番意識しました」

――残虐なシーンを演じる上で参考にされたものはありましたか?
森田「監督の動きを参考にしつつ、殴る行為ひとつとってもただ拳で殴りつけるのではなく、より痛そうに見える殴り方を追求しました」

――そういった過激な描写が、とても生々しく描かれています。
吉田監督「例えばテレビのニュースを見ていて、自分とは遠い出来事と思っていたことが、実際に自分の身に降りかかって初めて身近なことだったと気づくような、そういう危機感みたいなものをこの映画では表現したくて。その上で、バイオレンスな場面がアクションシーンのように見えてしまうと、やっぱりどうしても他人事のままで終わってしまうんです。自分が事件の当事者になったかのような感覚を、お客さんにも与えたいというのが一番ありましたね」

――マスコミ用プレスには、「この映画でクソみたいなイメージを持たれたい」とありましたが、この言葉の真意は?
吉田監督「俺は単純にハートウォーミングなものしか撮りたくないピュアな人間では決してないぞっていう(笑)。こういう言い方をしたらよくないかもしれないですけど、なんか日本映画って守りに入っている感じがあるというか、ぬるさを感じてしまうんです。例えば韓国映画は、隣の国なのに覚悟が違うというか、振り切っているところがあるんです。そんな韓国映画に俺はめちゃくちゃ嫉妬しているし、これよりももっと過激で臨場感のあるもの、人が見てゾッとするようなものを撮りたい。そういう意味合いが含まれています」

――確かに、そういう日本映画は最近あまりないですよね。
吉田監督「ゼロではないですけど、極端に少ないですよね。リアルにやろうと思っても、少し間違えるとアクション映画になってしまうので難しいですが。特に森田君の場合、かっこよくなりすぎてしまうんです。いつもテレビで見る森田剛とは違う、彼を知らない人から見たら本当にヤバい奴を映してるなというくらいの臨場感で、自分の中では近年まれに見るくらい生々しいのを作ってやったぞという気持ちがあります」

取材・文:下林香澄(ぴあ)




(5月27日更新)


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Movie data

(C)古谷実・講談社/
2016「ヒメアノ~ル」製作委員会

映画「ヒメアノ~ル」

5月28日(土)公開
TOHOシネマズ名古屋ベイシティほかにて

【オフィシャルサイト】
http://www.himeanole-movie.com/

[2016/日本/日活]
監督:吉田恵輔
原作:古谷実
出演:森田剛/濱田岳/佐津川愛美/ムロツヨシ/駒木根隆介/山田真歩/大竹まこと
(R15+)

Story

ビル清掃会社で働く岡田は、何も起こらない日々に焦りを感じていた。ある日、同僚の安藤が想いを寄せるカフェ店員のユカに会った岡田は、彼女が森田正一にストーキングされていることを知る。森田は岡田の元同級生で、高校時代に過酷ないじめを受けていた……