ホーム > インタビュー&レポート > 映画「アズミ・ハルコは行方不明」 松居大悟監督・蒼井優インタビュー 「今回は私たち世代がこれから作っていく映画という、もうちょっと広い目を持ちながら作ることができた」

映画「アズミ・ハルコは行方不明」
松居大悟監督・蒼井優インタビュー

「今回は私たち世代がこれから作っていく映画という、もうちょっと広い目を持ちながら作ることができた」

映画「アズミ・ハルコは行方不明」が公開中。独身で恋人もいない28歳のOL・安曇春子の失踪事件と、彼女の顔を街中にグラフィティ・アートとして拡散する20歳の愛菜。交錯する二人に、無差別に男をボコボコにする女子高生ギャング団の存在も加わり、3世代の女子の生き方と、彼女たちが抱える痛みを鮮やかに描き出す。女性ならどこかに共感する部分を見つけつつ、彼女たちの生きざまに不思議な爽快感を覚える一本だ。 主演を務めるのは、本作が7年ぶりの映画単独主演となる蒼井優。「ワンダフルワールドエンド」「私たちのハァハァ」など、青春を描く数々の映画を手掛けてきた松居大悟監督がメガホンを執る。今回は、その二人に話を聞くことができた。

――本作は、山内マリコさんの同名小説が元になっていますね。
松居監督「原作には3年前に出会いました。当時僕は28歳だったんですけど、同い年の枝見洋子プロデューサーと『僕ら世代にしかできないものをやりたい』という話をしていて。年齢が上の人たちに良いとこ取りされているような気がして、なんか悔しいなって気持ちがあったんです。そんな中で原作が出版されたんですが、物語の主人公の安曇春子も同い年で、そこでぐっと入り込みました。読んでみると、主人公が行方不明になっても、グラフィティによって存在がどんどん増幅して拡散するというのが映像的だなと。もちろん文字で読んでも面白いですが、動く絵にした時への可能性を感じました。そして読んだ後に、“行方不明”という言葉がネガティブじゃないイメージに感じられたんです。今の日本は、悲しいニュースを発信してそれで終わりということになりがちですが、その向こう側を描ける気がして、絶対今やるべきだと感じました」

――キャスティングに関しては、どのように決められたのですか?
松居監督「この作品に関しては、同世代ということに少しこだわりました。蒼井さんは同い年ですが、テレビや映画で見てすごく生命力がある人だと思っていたので、この映画の、どこに行くか分からないけどエネルギーがみなぎっている感じにぴったりだと思いました。プラス、グラフィティの絵になってもこの人だと分かるような強い顔を持っているような気もして、それで蒼井さんに声をかけました。愛菜役の高畑さんは以前から知っていたんですが、役や作品をしっかり理解して取り組むタイプのような気がしていて。愛菜はあまり物事を考えないキャラクターですが、高畑さんの演技の作り方とは一番反対のところにいるこの人をどう演じるんだろうと考えたら、ちょっとわくわくしてきたんです。先が読めないものにしたいという意味で、挑戦してもらおうと思いました。春子と愛菜の2つの話が交錯していくので、蒼井優に匹敵する実力を持っていなければバランスがおかしくなると思った時に、僕の中では高畑充希でしたね」

――そのオファーを受けて、蒼井さんはどう思われましたか?
蒼井「台本を読んだ時に、自分の話だと思ったんです。普段台本を読んでいると自分の中で映像が想像できるんですが、本作は途中でアニメーションが入ったりするので、すべてを脳内で見ることができなかった。でも逆にそこに惹かれました。十何年役者をやらせてもらっていて、制服を着ていた頃は、宮崎あおいちゃんだったり同い年の女優さんや俳優さんがいたんですが、制服を脱いだとたんにみんなバラバラに散った感覚があって。どうしても映画は男性キャストの割合が多くなってしまうので、女性キャストが集まるのは学園ものを除くとすごく少ないんです。そうなった時に、先輩たちの背中を見ながらずっと一人で歩いているような気持ちがありました。そうして27、8歳になった時、また同い年の俳優さんと仕事する機会が増えて、それがすごく嬉しかったし心強くてしょうがなかったんです。それで今回、監督とプロデューサーが同い年と聞いて、俳優以外のところにも仲間を見つけられたのがすごく嬉しいことだなって。その心強さがあればどこまでも飛べるぞって思いました」

――そうして同い年の多い中で作品を作られて、変化したことはありましたか?
蒼井「他の現場と作業が変わったりということはないんですが、同い年だからこそ気を遣わずに言えることがあったり、逆に言わなくても伝わるような安心感はありました。今までは1本1本の作品を作ることに没頭してきたんですが、今回は私たち世代がこれから作っていく映画という、もうちょっと広い目を持ちながら作ることができて、自分が映画界にいる人間だということを初めて実感した感覚があります。もし監督とプロデューサーと3人でまた何か組むことになったら、やっぱりこの年代が撮れるこの年代の話を作りたいと思うでしょうし、映画人として成長を見守りあうこともできるし、心強いですよね」
松居監督「あと、下手なものはできない、みたいな」
蒼井「うん、ふざけたことしたら本当に許してもらえないと思う(笑)。同い年だからこそ許せないことも絶対出てくるから、それが心強くもあり、怖くもありました」

――先ほど、蒼井さんは台本を読まれた時「自分の話だと感じた」とおっしゃっていましたが、感情移入できるところが多々あったのですか?
蒼井「感情移入というか、台本を読んだ時に、安曇春子と同じ経験をしたわけではないのに、彼女が味わっている感覚を私も全部味わってきたと思ったんです。その話を、現場で女性スタッフさんにしたら、みんなも『自分の話だと思いました』と言っていて(笑)。映画を一足早く見てくれた私の友人たちも同じ感想を持ったらしくて、やっぱりそういう台本だったんだなって思いました。なので本作では、“何もしない”ということに挑戦しました。私が何か要素を足したら、見ても“自分”だと感じられなくなって台本の面白みが減ると思ったので、なるべく要素を引ける限り引いて、ただカメラの前に立とうと。結構怖いんですけど」
松居監督「普通だったら、足し算してキャラクターを作っていく方がカメラの前だと安心するんです。その中でどんどん引いて行ったから、丸腰のような状態だったと思います」

――女性たちが共感する女性の姿を描く上で、監督が大切にされたことは何でしたか?
松居監督「女性はこういうものだって決め付けないというのはとにかく意識しました。男だから女性というものが分からないのもありますが、それでも各世代の女性が持っている痛みというのをすごく理解したかった。興味があって作りたいと思ったからこそ、そこは背負っていきたいと思っていました。だから最初は、この作品のゴールが分からなかったです。やりたいテーマはあったんですが、ゴール地点を決めてそこに向かうというより、走っていく方向に連れて行ってもらったという感覚です」

――実際、制作の現場では女性の意見をかなり取り入れられたそうですね。
松居監督「関わった女性スタッフやキャストの皆さんが、みんな自分の話だと思っているからこそ、圧力がすごいんですよね(笑)。制作作業の中で、ここは違う!とか、そうじゃない!ということに対して、跳ね除けられないくらいの強さで来るので、それを聞きつつ判断していく。その作業はかなりやりましたし、それがこの映画の力強さになった気がします。印象的だったのは、編集作業のタイミングで女性の編集スタッフが、当初想定していたラストシーンに対して『これは違うのでは?』という提案をしてくれたこと。最後はそのシーンのつもりでずっと台本を作ってきましたし、何度もテイクを重ねた思い入れのあるシーンだったので大切にしていたんですが、彼女の意見を試してみたらすごく良かったんです。作品に対する愛が強いからこそ、作品を根本からひっくり返すようなアイデアを出してくれる。そういうのは結構たくさんありましたね」

――関わる方たちの熱い想いを取り入れながら作り上げた作品なんですね。
松居監督「実はクランクインの1か月前くらいに、制作上の都合で映画が作れるか危ぶまれるような状態になったんです。キャストのスケジュールも押さえてしまっているし、今から準備を始めないと間に合わないけど、撮影を始めてからダメになったら大変なことになるという状況で。でも、もしそうなったら自主映画でもいいからやろうと言って、無理やり踏み込んだんです。その時はめちゃくちゃ攻めましたね。そして、その想いに共感してくれた人が集まってくれて無事に映画を作れることになったので、綺麗にまとまっていたらその想いをかってくれた人に失礼だなと。漫画の『ONE PIECE』みたいに、この人たちとなら死ねると思えるような熱い仲間がちょっとずつ集まって、海に出ていくみたいな感覚でしたね」
蒼井「確かに最初の顔合わせの時から、信じられないほどの熱量がありました。プロデューサーも、みんな初めましての役者たちが集まっているのに、想いが先走りすぎて、自己紹介をする前に映画について話し始めるくらい(笑)。でもその瞬間に、それくらいこの映画に対して想いがあるんだって伝わりました。『ビジネスやお金ではなく、想いだけで最後まで作ります』ということをプロデューサーが言っていて、それはすごく良い体験だったと思います」


取材・文:下林香澄(ぴあ)




(12月14日更新)


Check

(C)2016「アズミ・ハルコは行方不明」製作委員会

Movie data

映画「アズミ・ハルコは行方不明」

公開中
センチュリーシネマほかにて

【オフィシャルサイト】
http://azumiharuko.com/

[2016/日本/ファントム・フィルム]
監督:松居大悟
原作:山内マリコ
出演:蒼井優/高畑充希/太賀/葉山奨之/石崎ひゅーい/加瀬亮

Story

寂れた国道沿い。大型モールや洋服店、レンタルCDショップなどが立ち並ぶ郊外の街で、28歳の独身OL安曇春子がある日、突然姿を消した。彼女が消えた街には行方不明のポスターが貼られるが、そのポスターをパロディ化した落書きが不気味に拡散していく。