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「人にも花にも優劣をつけない」
心優しき花僧が伝える日本の心とは
野村萬斎インタビュー

発祥555年を数える華道の流派・池坊。その家元である専好の初代と、豊臣秀吉。専好がその花で秀吉を諫めたという伝説がある。その伝説を元に描かれた映画「花戦さ」。たったひとりの花僧が、天下人である秀吉を、どのようにして負かしたのか? その物語を、ユーモラスに、しかし心に響く作品として作り上げた。
主役である池坊を演じたのは、狂言師としても活躍しながら、数々の映像作品などにも出演する野村萬斎。どこか世間離れした純粋な専好を演じきった。
日本の伝統、そして心を感じる本作について、野村萬斎から話を聞いた。

――今回は花の力を使って戦うという話ですが、演じるうえで“花”の力をどのように感じましたか?
「イソップ物語で『北風と太陽』というのはご存知ですか? 旅人の上着を北風と太陽のどちらが先に脱がすことが出来るかという競争をしますよね。武力で上着を脱がすのが北風タイプ。花で戦うのが太陽タイプ。自ら脱いでもらう、花で戦うというのはそんなイメージでした」
 
――ラスト、市川猿之助さん演じる秀吉と対峙する緊迫のシーンは、歌舞伎で言えば見得を切りあう、笑いに昇華させるのは狂言と通ずるのかなと思ったりもしました。2人でないと成り立たない場面だと思います。猿之助さんとの共演はいかがでしたでしょうか?
「まさしく映画のクライマックスで、勝負のシーンでした。しかもこちらはひとりですが、秀吉は大勢の家来を引き連れてましたからね。ともすると首をとられるような緊張感がある中、秀吉の心の花をどう開かせるかと考えて臨みました。猿之助さんもすごく緊張感を持ってましたね。長丁場の撮影になるので、僕はもりもりお昼ご飯を食べてたんですけど、猿之助さんは食べずに臨んでました。食べないほうがストイックになれると仰って」
 
――2人でのシーンで何かエピソードはありましたか?
「台本に書かれたことを役者が現場でどう感じて演じるかというのは、映画の醍醐味でもあります。ラストのクライマックスなので言いにくいんですけど、最後に笑いにするのは僕から提案したら、脚本家も監督もプロデューサーもそれがいいねって言ってくださって。専好さんは人の心を和ませる人だと思うので、緊迫のままではよくないと。最後、あそこにいた人全員の笑顔という花が咲くという良いシーンになったのではないでしょうか」
 
――現場でのアドリブも結構あったんですね。
「そうですね。大茶会では木の枝にどんどん花を咲かせていくというマジカルなことをやったんですね。本で書くのは簡単だけど、実際どうするんだと(笑)。梯子に登って隠れ流れ花を生けるのはちょっとつまらないと思ったので、専好の親友であり悪友である吉右衛門役の高橋克実さんに人柱になって頂いて(笑)、彼を踏み台にして、いきいきと花を生けるという。これもその場で決まりましたね」
 
――専好さんは口下手のため言葉が少なく、表情で語ることも多いような役でした。どのようなイメージで演じましたか?
「とにかく花が大好きで、花に囲まれていればご飯もいらない、ぐらいの人ですよね。天才型。天才と何とかは紙一重という言葉もありますが、そういう意味で社会性もちょっと欠如してる。でもそれが嫌な感じにならないようにしたいとは思っていました。天真爛漫、純粋無垢。ピュアでありイノセントということは心がけました。ちょっと困った人だと思いつつも、みんな和んでしまって全く敵を作らない。その反面、花を生けるアーティストとしてはものすごいスケール感を持っている。そういう男でないと専好さんは成立しないと思っていました。あとは、あまり分別も理性もなく、直感的に怒ったり泣いたりする人でもありますよね。要するに子どもです。常にハイテンションで演じたのでくたびれました(笑)」
 
――花への愛情を持っている専好さんはとても可愛らしい人ですよね。
「人も花も一緒だという目線が専好さんにはあると思うんです。いろんな人がいるように、小さな花もあれば大きな花もある、毒のある花もあるわけです。人にも花にも優劣をつけず、それは世界に存在するんだからその良さをどうやって引き出すか。そう考えるのが専好さんの魅力だと思うんです」
 
――斬新な表現を伝統のなかでやろうとする専好さんの姿が、萬斎さんに繋がるように感じました。ご自身からみて、役と重なる部分があれば教えてください。
「僕らも古典芸能のなかで、守るべき型や方法論、ルールというものがあるわけですけど、それに縛られてるだけだと、今を生きてる感覚と変わってきてしまうんですよね。狂言であり能という方法論は持ってるけど、今は感じたいんですよ。お花にしても、現在生きてる花を、現在生きてる人間が生けて、観るわけですよね。やはり現在を感じないと、博物館で化石を見てるようなことになってしまう。伝統に現在性をどう結びつけるかというのは、僕も常に考えてることなんです。過去の人間が、過去のことをやっているわけではなく、今生きている僕がやってるんだってこと。専好さんも今自分は生きてるんだって表現してると思うんです。立場上、型にはまって手本にならなくちゃいけないというのもあり、相克する部分もありますけどね。父なんかは、型を超えた芸域に入ってきていて、型を守ってるはずなのに型が見えない。そういうのを見てしまうと、意識して今の自分を出すのではなく、意識しなくても自分がにじみ出るみたいなのが究極なんだろうなって思います。そういう意味では、専好さんも僕もまだまだやりたい人たちなんですよね(笑)」
 
――華道や茶道など、古くから日本に伝わるものが題材になっています。今を生きる私たちに、この作品をどのように楽しんでもらいたいというのはありますか?
「けったいな男の話ですからね。そういうユニークな部分から入ってもらいつつ、お花やお茶の心、水墨画的なものまで、中世の日本の文化が全て観られます。どちらかというと禅の思想に近いかもしれないですね。そこに秀吉の悪政がだんだん影を忍ばせていく…。日本というものがどういう文化なのか、勉強しなくてもすんなり入ってくるんじゃないでしょうか。オリンピックを前に、日本ってこうだよねということを再認識してもらえたらと思います。それと、チャンバラがなく、精神性で戦うというところも今っぽいじゃないですか。武力や圧力ではなく、もっと違う対話の方法があるんじゃないか、もっと心を開こうよというのを、この映画は語ってるんだと思います」



(5月31日更新)


Check

(C)2017「花戦さ」製作委員会

Movie data

映画「花戦さ」

6月3日(土)公開
ミッドランドスクエアシネマほかにて

【オフィシャルサイト】
http://www.hanaikusa.jp/

[2017年/日本/東映]
監督:篠原哲雄
原作:鬼塚忠
音楽:久石譲
出演:野村萬斎/市川猿之助/中井貴一/佐々木蔵之介/佐藤浩市/高橋克実/山内圭哉/和田正人/森川葵/吉田栄作/竹下景子

Story

戦国の世も終わりを告げる頃、池坊専好は織田信長の所望で、生け花“大砂物”を披露するため岐阜城へ向かう。しかし巨大な松を中央に据えた大砂物は思わぬ失態を招き、信長の怒りを買う。その時、事態を取り繕い専好を救ったのは、若き武将・木下藤吉郎だった。