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映画「八重子のハミング」佐々部清監督 インタビュー

「年齢を重ねた夫婦がこんなに愛し合えているという
奇跡みたいなことが伝わるといいなという想いで作りました」

4度ものガン手術を乗り越えた夫が、若年性アルツハイマー病の妻を介護した4000日余りにも及ぶ日々を綴った手記「八重子のハミング」。 今回、「夕凪の街 桜の国」などの作品を多く手掛ける名匠・佐々部清の手によって映画化された。自らの病と闘いつつ、徐々に子どもに戻っていく妻を介護するという老老介護の現実を描きながらも、見終わった後には夫婦の絆や人との繋がりの温かさが心に残る一本だ。 映画について、佐々部監督に話を聞いた。

――まず映画化の経緯についてお聞きしたいのですが、原作とはどのように出会われたのですか?
「もともと、原作者の陽(みなみ)信孝さんとは10数年前から知り合いでした。山口県の萩市に、地域に1館しかない映画館を頑張って守っているチームがあって、陽さんはその映画館を支えるNPOの理事をされていたんです。僕が山口県出身なので、そこで僕の特集を組んでもらったりする中で知り合って仲良くなりました。そしてある日『手記が映画化されるんです』と話してくれました。本当は僕に撮ってほしいけど、違う監督で、大手の映画会社で進む予定だと。それで、読んでくださいと渡されたのが原作の『八重子のハミング』でした。山口県から東京へ帰る新幹線の中で読んだら、とにかく涙が止まらなくて。本当はこういうのが撮りたいけど、でも既に決まっているなら仕方ないという気持ちでした」

――そこから、佐々部監督の手に渡ったのはなぜですか?
「その次の年にまたお会いした時、映画化は順調か聞いたら、『脚本家も監督も取材に来ないし、連絡すらもない』と。心配になって確かめたら、企画していた映画会社ではとっくにその話はなくなっていた。しかもそのことを原作者の陽さんに伝えてもいなかったんです。僕はそこにすごく憤りを感じて。同じ映画を作る仕事についている者として悔しさがあったので、僕にやらせてくださいとお願いしました。原作にほれ込んだのもありましたが、原作者が好きだったという気持ちも強かったですね。そこから自腹で脚本の取材に行き、一気に脚本を書き上げました。そして、4年間かけて各映画会社に持ちかけたんですが、どこにも振り向いてもらえず、一旦諦めていたんです。それからしばらく経ち、今から3年ほど前に、『群青色の、とおり道』という小さな映画を作りました。本作の主人公・石崎誠吾役の升毅さんにも出ていただいた映画ですが、その若いプロデューサーに今回の脚本を読ませたら、『今まさにやるべき企画だから、絶対やりたい』と。そこから本格的に動き出しました」

――今作では、“介護”が大きなテーマとなっていますよね。そこには、監督ご自身の経験も反映されているそうですが。
「自分の母親が、一昨年の夏に亡くなったんです。監督になってから、今作以前に山口県で4本作品を撮っていますが、そのたびに母は喜んでくれていました。そんな母でしたが、亡くなる3~4年くらい前から認知症が始まって。僕が山口に帰って母を訪ねても、1時間くらい話してやっと自分の息子だと分かるような状況でした。その間妹が母の介護をしてくれていましたが、母とぶつかり合うこともあったりして、妹は疲弊して心療内科に通ったりもしました。こんな身近にも大きな介護の問題が起こるのであれば、こういう映画は今この国に必要な作品だと感じたのも、本作を手掛けた大きな理由でした」

――介護の厳しさが描かれつつも、夫婦の絆や人との繋がりが印象的な作品です。
「介護というものが大きな背景にありますが、升さんや(妻・八重子役の)高橋洋子さんに出演をお願いした時、『熟年の純愛映画を作りたい』とお伝えしたんです。大切な人がどんどん子ども返りしていく中で、最後に残るのは純愛になるのかなと。究極の恋愛というか、純愛の映画にしたいと思いました。同じようにアルツハイマーを扱った映画で、『半落ち』という作品を作りましたが、それもミステリーではなくて究極の夫婦の物語を作りましょうと始まったものでした。今作では『半落ち』から膨らませて、夫婦の愛の物語プラス、二人にまつわる“家族の物語”にしたいと。5年ほど前に『ツレがうつになりまして。』という映画を作った時も、うつ病を啓蒙する映画ではなく、夫婦で支えあうって、結婚するっていいじゃん、という作品にしたかったんです。今作も、年齢を重ねた夫婦がこんなに愛し合えているという奇跡みたいなことが伝わるといいなという想いで作りました」

――見終わったあと温かい気持ちになれるのは、そんな二人の愛情が心に残るからなんですね。先ほど、映画化を手掛けたのは原作者の陽さんが好きだったこともあると伺いましたが、監督にとって陽さんのどのようなところが魅力的なのですか?
「人間臭いところですかね。やきもちも焼くし。陽さんが大好きなスナックがあって、その店のママと僕が仲良くなって2人で飲みに行ったら、そのことにすごく嫉妬するんです(笑)。みんなの前で『悔しい!』って言う陽さんがとってもかわいくて。妻の介護を長年していたということから、聖人君主のような人を連想されるかもしれませんが、それとは少し違った人間臭さがありますね」

――本作では、監督と陽さんの故郷であり、映画の舞台となった山口県の大きな支えがあったと伺いました。具体的にはどのようなところでしょうか?
「全てにおいてですね。最初に映画を作るための資金集めをやった時も、いろんな会社や個人の方をコツコツ一年くらいかけて回ったんですが、たくさんの方からご協力をいただきました。撮影はすべて萩市を中心とした山口県内で行いましたが、萩の婦人部隊の方々が毎日手作りの食事をご用意してくださいました。昼食の予算を抑えて設定していたので、それぞれのお宅から野菜やお米を持ち寄ってくださったり。本当に支えていただきました。そうして支えていただいた企業や個人の方たちに、完成したものを見て広めていただいた結果、県内で約25000人という、去年の山口県で第2位の動員を得ることができました。『君の名は。』には勝てませんでしたが(笑)


――制作の現場においても、温かな人の絆があったんですね。
「全部自分で回ったからこそ、というのもあると思います。普通の監督はそこまでしない中、今回はロケ期間中の宿泊先まで自分で現地を回って探したので。制作にあたって、いただいたお金は無駄にしたくなかったので、ギリギリまでお金を切り詰めたんです。スタッフとロケハンに行った時は、社長をやっている高校時代の仲間が持っている出張所を借りて、3LDKのマンションに6人で雑魚寝したり。でも、そういうところをみんなちゃんと見てくれるんです。そうやって頑張っているんだっていうのを見て、また応援してくれるという。そういう繋がりがありました」




(5月 2日更新)


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Movie data

(C)Team『八重子のハミング』

映画「八重子のハミング」

5月6日(土)公開
名演小劇場にて

【オフィシャルサイト】
http://yaeko-humming.jp/

[2017年/日本/アークエンタテインメント]
監督:佐々部清
原作:陽信孝
出演:升毅/高橋洋子/梅沢富美男/文音

Story

あるホールの演台に立つ白髪の老人、石崎誠吾。彼は若年性アルツハイマーを患った妻、八重子の介護を通して経験したことや感じたこと、そして二人の思い出を語り始める。二人は教員時代に巡り会い結婚するが、八重子は長い時間をかけて少しずつ記憶を失っていく。