ホーム > インタビュー&レポート > 観客も役者も監督さえも結論を知らない!? 「そして父になる」の是枝監督と福山雅治が再びタッグ リアルな法廷劇で描く心理サスペンス

観客も役者も監督さえも結論を知らない!?
「そして父になる」の是枝監督と福山雅治が再びタッグ
リアルな法廷劇で描く心理サスペンス

「そして父になる」「海街diary」と数々の賞を受賞し、日本を代表する映画監督として評される是枝裕和。彼が「そして父になる」の福山雅治との再タッグ、そして名優・役所広司とともに描き出したのは、容易には判別しがたい人の心というもの。弁護士の全面協力によるリアルすぎる法廷劇で描かれる心理サスペンスは、物語の終わりを向かえても、心の中で問いを放ち続ける。人の心の深い闇を覗き込んだ先に何が見えるのか・・・。
是枝裕和監督に話を聞いた。

――最近の“家族”をテーマとしたものから、今作はサスペンスタッチでだいぶ作風が違いますよね。弁護士を描きたかったとのことですが、どの部分に興味を持たれたんでしょうか?
「いろいろな理由があるんですが、ひとつは『そして父になる』の際に、法律監修として入って頂いた弁護士さんと今もつきあいが続いているということ。あと僕がBPO(放送倫理・番組向上機構)の委員をしているんですが、メンバーの半分が弁護士ということもあり、日常的に弁護士さんと接することが多くなったんです。一緒に過ごしている間に、弁護士の頭の中がどうなっているか、非常に興味がでてきたんです。また弁護士の方と話をしている中で、『よくテレビで判決が出て、控訴し、真実の究明は地裁から高裁に場所を移して続けられることになりましたとレポーターが言ってるけど、別に法廷は真実を明らかにする場所ではないからね』とぽろっと言われて。『じゃあ何をする場所なんですか?』と聞くと、『弁護側と検察側の利害の調整をする場所。だっていずれにしても本当の真実は本人にしか分からないじゃないですか』と仰って。なるほど、面白いと思ったんです。分からないのに、分かっているというていで判決は出るし、場合によっては死刑にもなるわけですよね。人間が営んでるシステムで矛盾があるのに、出てくる判決は非常に絶対的だなと。それでその怖さに着地するような映画を作ってみたいと思ったんです」
 
――実際に作品を観させて頂いても、何が真実かわからないままですよね。監督が今回、この作品を作るうえでポイントとしていた部分は何ですか?
「実際に弁護士が分かる範囲を超えては分からないようにしようとは思ってました。観た人も含めて。この人は本当に人を殺したんだろうか、何のために殺したんだろうかという、宙吊りのままにお客さんを置くといいう風にしたかったんです」
 
――私自身もまだ宙吊りな気持ちです。
「みんなそうなんですよ。福山さんも未だに宙吊りだと思います」
 
――役者さんもですか?
「僕自身も分からないまま書いていたから、本がなかなかできなかったんです。役所さん演じる三隅のことを分かりたいと思いながら書いてたんですけど、結局、結論が分からないんですよね。福山さんも分からないから、『実のところ監督はどう思ってるんですか?』と聞かれたんですけど、『僕も分からないんですよね』って言ったんです。そうしたら今度は役所さんに、『役所さんは殺してるんですか?殺してないと思って演じてるんですか?』って聞いていて。役所さんは役所さんで『いや、僕もよく分からないんだよね』って(笑)。そういう探りあいを実際の撮影でもやっていましたね」
 
――法廷劇ということもありますが、検察、弁護士と立場がすごく明快にキャラクター付けされていますよね。弁護士の中でも、三者三様のキャラクターがあったりと。キャラクター設定でのこだわりはあったのでしょうか?
「今回、“三”という数字がキーワードになっています。メインビジュアルとなっている福山さん、役所さん、広瀬さんも“三”人ですし、弁護士・検察・判事という立場でも“三”。弁護士の中でも理想主義の弁護士、ヤメ検と言われる一度検察をやって辞めた弁護士、非常にリアリストの弁護士と、ここでも“三”に。あとキャラクター作りでいうと、脚本に取りかかる前から7人の弁護士さんに手伝ってもらってるんです。元検事の方に起訴状を書いて頂いて、それに基づいて弁護士役と犯人役をお願いして模擬接見を行ったんです。最初にああいう形で名刺を見せるとか、何を聞くのかとかを実際にやって頂いたのをビデオに撮って、台本に反映させています。模擬裁判もやったんですよ。弁護士の方7名に、犯人役1人、弁護士・検察・裁判長2人という形で、大学の法廷教室を借りて行いました。そのやり取りやインタビューをベースにキャラクターやセリフを書きました」
 
――三つ巴の対立構造をはっきり描きたかったんですか?
「そうですね。ただその三つが必ずしも対立するわけじゃないんです。実は同じ方向を向いていて、同じ船に乗っている。対立というのは表面上のことだけだったりすることもあるというね」
 
――確かにそう感じるシーンも多いです。模擬裁判などを行われたとのことですが、実際に弁護士の方から聞いた話で、作品に取り入れたという実例があればいくつか教えて頂けたらと思うのですが。
「裁判でいうと、公判前整理手続という裁判が始まる前に弁護士・検察・判事の三者が集まって、どういう証拠を出すかなど全て見せてしまうというのがあるのですが、それを知ったときは、『マジか』って思いました(笑)。これをしてしまうと法廷ですることないじゃないかと思ったんですけど、法廷ですることをなくすためにするということなんですよね。法廷でいきなり新しい証拠が出てきてしまうと、裁判がとっちらかってしまうので、そうならないために事前に全て見せてしまうというのは驚きでした。それは実際に作品にもいれました。あと、とっちらかってしまった後に三者が裏に呼ばれ、目配せで何となくの落としどころを決めるというシーンがあったかと思うのですが、実はあそこが1番裁判の実像だと思っています。『あの場で三隅が否認したらどうなりますか?』などと弁護士の方に質問し、その聞いた話も書きました。あれは僕が書いて演出しているというより、現場に弁護士さんに張り付いてもらって、『いや、そうじゃない』など監修してもらってるんです。出来上がったシーンを観て、弁護士さんたちも『かなりリアルだね』と言っていましたよ(笑)」
 
――役所さんと福山さんが演じる接見シーンが何度も出てきましたよね。物語として接見シーンはとても重要な位置づけだと思います。同じ接見でもいろいろな見せ方をされていましたが、どのように撮影したのか聞かせてください。
「接見シーンがメインの映画だとは、本読みしたときに感じました。これは福山さんと役所さんの芝居を観る、というのを縦軸にしていく映画なのだという覚悟で書きました。接見は全部で7回あるのですけど、本読みの段階では実は5回だったんです。本読みをしたら、圧倒的に2人のやり取りが面白くて、2回増やしたんです。ただその7回をどう撮り分けるかは考えました。最初2回は3人で行って、その後1人で行って2人で行って、その後は全部1人で行ってます。ガラス1枚隔てた関係の中で何が動くか、ですよね。人は動かないので、何かを動かさなくてはいけない。力関係だったり、感情だったりを動かしていく。何が動くかということと、カメラがいつ動くかなど、7回の接見シーンを表にしてまとめたりもしました。セットでの撮影なんですけど、壁を取っ払って実際にはありえないポジションからの撮影もしています。7回を飽きないようにどう作るかは、撮影の方とずいぶん考えて作りましたね」
 
――役所さんは、今回が監督の作品に初出演ということでしがが、非常に存在感のある演技でとても引き込まれました。キャスティングはどのようにお願いしたんですか?
「いつかはやらなくてはいけない人だとは思ってはいたんですよね。日本で1番うまい役者だと思ってますから。どうやって役作りをしているのか、見てみたいというのはありました。でも本当のところ、今回のきっかけは、役所さんから年賀状を頂いて、『そろそろですね』って書いてあったから、そろそろだなって(笑)。プロットの段階でOK頂いたので、それまで書いていたのも含めて、役所さんで当て書きしました。福山さんも役所さんも当て書きですね。役作りとしては、役所さんには、結論が分からない方がいいよね、ぐらいしか僕からは言ってなくて。脚本を僕以上に読んでくれているので、ついていくのがやっとでした(笑)。勉強になりましたね」
 
――福山さんは「そして父になる」に続いてのタッグですよね。監督からのオファーだったとも聞きましたが、福山さんの魅力は何だと考えていますか?
「『そして父になる』をやった直後から、もう1本やりたいですねという話はしてたんです。役者と監督として、非常に相性が良かったんですよね。何をやってもらおうか考えたとき、福山さんは黙ってる顔が強いと思ったんです。『そして父になる』のときもでしたけど、目の前の子どもをただ見てるというだけなのに、ある種の残酷さが出たり。そういう意味で非常に映画的な役者だと思うんですよね。なので今回は、芝居をするというより、その眼差しを撮りたいと思ったんです」
 
――実際に撮影していかがでしたか?
「僕が求めてるものは十分理解してくれてるので、とてもスムーズでしたよ。ただ時々格好よくなりすぎる(笑)。格好よくなりすぎた時だけ、『格好よくなりすぎてますよ』って僕が注意すると、『すいません、ちょっと地が出ちゃいました(笑)』って福山さんが冗談で笑わしてくれるということが何度か(笑)。でも今回は、僕との関係というより役所さんと、じゃないですか? 役所さんと向き合って、接見を重ねていくごとにどんどん2人のお芝居が良い具合に練れていってるんです。良いシーンになってるなと撮ってるときから、みんなが感じてたから、そういうときは監督は何もしない方がいいんです」



取材・文:小坂井友美(ぴあ)



(9月 8日更新)


Check

(C)2017『三度目の殺人』製作委員会

Movie data

映画「三度目の殺人」

9月9日(土)公開
ミッドランドスクエアシネマほかにて

【オフィシャルサイト】
http://gaga.ne.jp/sandome/

[2017年/日本/東宝=GAGA]
監督・脚本:是枝裕和
出演:福山雅治/役所広司/広瀬すず/吉田鋼太郎/斉藤由貴/満島真之介/松岡依都美/市川実日子/橋爪功

Story

勝利にこだわる弁護士の重盛は、やむを得ず、30年前にも殺人の前科がある三隅の弁護を引き受ける。三隅は解雇された工場の社長を殺し、死体に火をつけた容疑で起訴されていた。“負け”が決まったような裁判だったが、三隅に会う度に重盛の確信は揺らぎ……。