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「殺人鬼であっても人を愛しているという事実は変わらない」
究極の二面性を描き出した『ユリゴコロ』。
熊澤尚人監督インタビュー

ある殺人鬼の手記が書かれたノートを偶然見つけたことから物語ははじまる。
原作は「このミステリーがすごい!」5位などに選ばれ、“イヤミス”(嫌な気持ちになるミステリー)ブームの一端を担う沼田まほかるによる小説「ユリゴコロ」。映画では、殺人鬼の手記による過去編と、そこと全く関わりがないように思える現代編が交差しながら物語は進んでいく。
人を殺すことでしか自分の拠り所を感じられない美紗子を演じるのは吉高由里子。そしてそんな彼女に愛を教える洋介役に松山ケンイチ。奇妙なノートを見つけてしまったことで日常を踏み外していく亮介役に松坂桃李が。いずれも数々の作品で確かな足跡を残してきた実力派俳優たちだ。そんな彼らが、善と悪、愛と憎しみ、そんな表裏一体の感情の境界線上にいるかのような、難しい役どころを演じきったことで完成した映画『ユリゴコロ』。
監督である熊澤尚人に、この作品の魅力を聞いた。

――原作があるものですけど、今回映画化するうえで改変した部分もあるとお聞きしました。原作から映像化するうえで、ここは大事にしたという部分を教えてください。
「原作は、大藪春彦賞もとっていますし、本屋大賞にもノミネートされて、イヤミス(嫌な気分になるミステリー)のブームにもなりましたよね。湊かなえさんの次に、(沼田)まほかるさんがブームになったときにちょうど原作を読みました。実はこの作品の映像化は結構争奪戦なっていて、いろんなチームが試みたけど、うまく映像化できなくて頓挫してるんですよ。原作は小説ならではのいろんな伏線が入っていて、文字ではすごく面白いんですけど、実写にした瞬間にトリックが成立しなくなるものがたくさん入っていて。映像化は不可能だ、みたいな話を僕も聞いていたので、チャレンジしてみたい強い気持ちはありました。原作ですごく良かった部分は、読んでると何かゾワゾワしてくるんですよね。次どうなるんだろうって。そこがミステリーとして一級品だと思うので、その感覚は映像化するときにすごく大切にしました。次どうなるんだろうって、知らない間に心がゾワゾワしていく感覚を、映像でも感じてもらえるようにいろんな細かいテクニックも使いました。映像用に新たな仕掛けも作らないと成立しない部分もあったので、台本作りにも3年かけて取り組みました。1回作り直す作業ですから、だいぶ時間かかってしまいましたね。最後の結末もかなり変わっています。小説読んでいる方も、映画はこうなるんだというサプライズはすごく入ってるので、楽しんでもらえたらと思います」
 
――吉高由里子さん演じる美紗子は、殺すことでしか生きていけない人であり、共感できないんですけど、後半の愛を知って葛藤していくところではぐっときてしてしまって。吉高さんをキャスティングした理由を聞かせてください。
「ものすごく難しい役ですよね。主人公の女性は殺人鬼で、一般の人間には共感できない、すごく嫌な気持ちになりますよね。だからこそ“イヤミス”嫌な気分になるミステリーなんですけど。吉高さんはバラエティやCMで、最近だったら深夜ドラマ『東京タラレバ娘』での、キュートでファニーなイメージだと思うんですよ。『ユリゴコロ』の主人公は真逆ですよね。僕自身は実際にご本人にお会いしたこともあって『ユリゴコロ』の美紗子は絶対に吉高さんがいいと思ってオファーしました。吉高さんって、『タラレバ』的なイメージもあるんですけど、どこか影があったり、単に美しいだけじゃない妖艶さとか、冷たい氷のような部分や、幸が薄そうな感じを出すのが絶対うまい人だと思ったんですよ。実際に撮影に入って美紗子を演じてもらうと、魔性の魅力というか、男性が惹きつけられてしまう表情や佇まいを、ものすごく透明感のあるように演じてくれて。僕の狙い以上にすごく良い輝きを放ってくれました。昭和の女優さんにはこういう雰囲気を出せる人ってたぶん何人かいたと思うんです。ひさしぶりにこういう魅力の出せる女優さんが現れたなと。彼女を獲るのが毎日すごく楽しかったです」
 
――確かに、殺人鬼としての姿には目を背けたくもなりながら、愛情あふれるシーンではすごく入り込んで観てしまいました。
「吉高さんがちゃんと地獄を見たっていう表情をちゃんとするんですよ。同時にすごく切ない顔を。僕は殺人鬼を全く肯定できないし、それはもちろん吉高さんもです。ただ殺人鬼って殺さないと自分が生きていけない、かわいそうな人でもあって、今作では同時に愛を知ってしまうんです。それって相反するものですよね。そういう矛盾した2つを持った人が葛藤しながら生きていくという作品を作りたかったんです。今回の主人公は極端ですけど、人間って悪い部分もあれば良い部分もあるじゃないですか。殺人鬼であっても人を愛しているという事実は変わらないんです。その気持ちは共感できる。でも殺すことは共感できない。吉高さんがその葛藤を、苦しみながら生きていく姿を好演してくれて、それを観るとやっぱり苦しくて、心胸を刺されるような気持ちになります。それが映像化した『ユリゴコロ』の1番良いところだと思ってます。そういうことを感じられる映画って、今あんまりないと思うんですよ。殺人鬼は悪い人です、これが正しいです、これは悪いです、という作品はたくさんあると思うんですけど、やはり人間は矛盾したものを持っていて、それでも生きているというのを感じられる作品になってるんじゃないかと思います」
 
――吉高さんの演技も凄かったですが、松山ケンイチさん、松坂桃李さんも、皆さん、難しい役どころだったと思います。監督からはどのような演出をされていったんですか?
「吉高さんも松坂桃李くんも松山ケンイチくんも、みんな一級の俳優陣なので、打てばいくらでも響きますよ。吉高さんも顔合わせのときに、美紗子について、飲みながら5、6時間話してたんですけど、松山くんは以前から仲良かったというのもあり、僕のうちに来てもらって、ご飯食べながらいろいろ話をしました。松山くんはちょうど『聖の青春』を撮り終えたところで、その映画で30キロぐらい増量してるんですよ。2月に撮影が終わって、僕が会ったのは4月だと思うんですけど、やっと普通に状態になったときなのに、僕はそこで後10キロ痩せてほしいと言いました(笑)。松山くん演じる洋介は物欲がなく、すごく罪の意識に苛まれてるというイメージがあったんですよね。そしたら朝リンゴをひとつ食べただけで、現場でも何も食べず1日過ごしてくれてました。本当にすごい俳優です。監督は言うだけなんで簡単ですけど、やるのは大変ですよ。でも、松山くんの新しい魅力は出せたと思います。吉高さんにも『監督にプレッシャーがかかることをたくさん言われて大変でした』と言われちゃいましたけど(笑)」
 
――松坂桃李さんもとても爽やかな好青年から、少しずつ狂っていくような二面性を演じていましたが、どうでしたか?
「桃李くんも今までは若手と言われてたと思うんですけど、今はもう若手でもなく、俳優として輝きを増していく時期だと思うんです。仰るように桃李くんに二面性を描きたいんだという話はしましたけど、それをどういう風に彼が演じるかは桃李くんの腕の見せどころだったと思うんです。桃李くんはすごくフランクで爽やかな人で、監督こういう感じではどうでしょうか、といくつも提案してくれる俳優さんなので、僕も一緒にやっていて楽しかったです」



取材・文:小坂井友美(ぴあ



(9月23日更新)


Check

(C)沼田まほかる/双葉社 (C)2017「ユリゴコロ」製作委員会

Movie data

映画「ユリゴコロ

9月23日(土・祝)公開
ミッドランドスクエアシネマほかにて

【オフィシャルサイト】
http://yurigokoro-movie.jp/

[2017/日本/東映=日活]
監督:熊澤尚人
製作総指揮:佐藤直樹
原作:沼田まほかる
出演:吉高由里子/松坂桃李/松山ケンイチ/佐津川愛美/清野菜名/清原果耶/木村多江

Story

余命わずかな父の書斎で、亮介は“ユリゴコロ”と書かれた1冊のノートを発見する。そのノートには、殺人者の告白文が綴られていた。これは事実か創作か? 誰が何のために書いたのか? 亮介は数々の疑念を抱きながらも、ノートに強烈に引き寄せられていく。