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「20年以上たってやっと準備ができた」
6年半ぶりの名古屋公演へ向けて
珠玉のプログラムでのぞむ

アジア人初のショパン・コンクール優勝者として、1980年に一躍脚光を浴びたダン・タイ・ソン。6年半ぶりの名古屋公演ではショパン弾きたる所以でもあるショパン、リスト。そして昨今、彼が取り込んでいるシューベルトをプログラムにのぞむ。
年を重ねるごとに音を豊かにするダン・タイ・ソンによる、今の彼ならではの音色を聞けるはず。インタビューでは、自身のピアニストとしてのキャリアなども話してくれた。

――プログラムにあるシューベルトは、今回レコーディングもされたようですね。今、シューベルトに向き合ってるのはどういう思いからでしょうか?
「20代、30代、40代と年を重ねていくなかで、得意とするレパートリーは変わっていったんです。若い頃は、皆さんが思ってるようにショパン。それからだんだんフランス音楽を演奏するようになっていきました。そして今、60歳近くになり、シューベルトを弾く心境に変わってきたんです」
 
――今の年齢にシューベルトが合うというのはどうしてでしょう?
「例えば神童と呼ばれるような若い少年少女たちは、ショパンなどを素晴らしく上手に弾きますよね。でももっと人生経験が必要な音楽の代表とでもいうべきものがシューベルトなのです。キーワードとしては、内向的であるということ。そして親密さ。もちろん時々は外交的ではあり、時にはイージーゴーイングなときもありますが、内向的、親密さというのは非常に重要です」
 
――演奏する曲についても聞かせてください。
「『12のドイツ舞曲』。のちにウィーンでのワルツに発展していくのが、この舞曲です。もともとは家庭で友達とダンスをするために作曲された曲なのですが、今では聴いて楽しまれるようになっています。私の演奏では、舞曲としてリズミカルに演奏するというより、もっと自分の想像を膨らまし、12の曲の性格を大切にして演奏しています。『アレグレット』は、壮大なというより、時々、顕微鏡で拡大しないといけないような曲です。簡単そうにみえるかもしれませんが、自分にとっては大きなチャレンジでした。例えるなら俳句のように、それほどたくさんの音はありません。単純にみえますが、すごくすごく難しく、とても豊かな作品です。20年以上まえにこの曲を初めて弾き、それから何回か演奏したことはありますが、満足したことはありません。20年以上たって、やっと準備ができたように感じています」
 
――ソンさんが感じるシューベルトらしさ、というものがこれらの楽曲にはあるのでしょうか。
「単純さゆえに内容が複雑になっている彼の曲のように、シューベルトは非常に複雑な作曲家です。ロマン派の作曲家とされてますが、ある意味、非常に古典的な作曲家だと思います。形式が古典的なんです。ロマン派の気持ちをもって古典的な形式で表現しなければならないわけです。ピアニストのテクニックを出すような音数の多い演奏ではなく、非常に限られた音で演奏するということが、とても難しいです」
 
――先ほど仰ったように、そういった部分を若い頃は表現できなかったと自身では感じているということなんですね。
「20年前はロシアで勉強していたので、ロマン派を感じることが多かったです。なのでシューベルトの、形式に対しての完璧さが求められることに少し距離を感じていました。だから20年前はシューベルトをショパンのように弾いていました。その後、西側の諸国に長いこと暮らすことで、内容について理解が深まるようになりました。シューベルトの難しさは、ロマンティックに弾きすぎるとショパンのように聴こえてしまい、クラシックに弾きすぎるとモーツァルトのように聴こえてしまうんです。シューベルトはその間にある作曲家だと思います。そういうことが時間がたつにつれて分かるようになってきました」
 
――ソンさんは、シューベルト自身の人間像についてはどう考えてらっしゃいますか?
「シューベルトは、ベートーヴェンから学んだことはたくさんあると思います。自分が亡くなったときには、ベートーヴェンの『弦楽四重奏 第14番』を演奏してほしいと言ったほど、彼はベートーヴェンを非常に尊敬していました。2人を比べてみると、ベートーヴェンは問題が起こったとき、それに立ち向かうアクティブな性格の持ち主です。けれどシューベルトは、おそらく自分の殻のなかに閉じこもり、ひとり孤独に落ち込んでいたように思います。ベートーヴェンは、自分としての意見ではなく、時々、人類を代表してるかのようなことを話します。しかしシューベルトは、私の悲しみ、苦しみをわかってほしいと訴えてるようです。そこがロマン派だと思う部分でもありますし、どの作品にもそのような気持ちを感じることができます」
 
――今回のプログラムでは、シューベルトのみではなく、ショパンやリストも演奏されます。こちらの2人についても教えてください。
「シューベルトはエンタテインメントなミュージックではないんです。それほど派手ではないので、お客さんも非常に集中して聴かなければいけません。演奏する側も、聴く側も精神的に準備してからでないと成功しないんです。なので前半にシューベルトを。後半には、私がショパン弾きだと言われておりますので、ショパンを。後半の目玉はリストです。『ジュネーヴの鐘』は、音の美しさが非常に大切な曲です。いろんなアーティストたちが自らの特徴を持っていると思いますが、私が思う自身の特徴は音の美しさだと思っています。そしてその美しさが1番現れるのがこの『ジュネーヴの鐘』です。続いてメインとなる『「ノルマ」の回想』です。この曲はベッリーニのオペラ『ノルマ』からの曲ですが、ピアニストとしては大きなチャレンジにもなる曲です。今回のプログラムは非常にコントラストがはっきりしており、前半はシューベルトの内向的な音楽を。対照的に後半は派手なプログラムで、最後にワーっと噴火して終わるようなイメージでいます」



(5月30日更新)


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ダン・タイ・ソン ピアノリサイタル
~世界のヴィルトゥオーゾ・シリーズvol.6~

6月18日(日) 14:00
三井住友海上しらかわホール
S席-10000円 A席-8000円 B席-6000円
※未就学児童は入場不可。
東海テレビ放送[TEL]052-954-1107
Pコード:319-878

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