ホーム > インタビュー&レポート > 清木場俊介 インタビュー 「40年間唄えるかといったら99.9%不可能だから、 0.1%の可能性にかけたい」
「ファンがいたことで10年続けられたと、改めて気づいた」
――ソロデビューをして10年が経過しました。振り返ってみてどうですか?
「一人でがむしゃらに走ってはいたけど、ファンがいたことで10年続けられたと改めて気づけたのは大きいです。20代の頃は、他人は関係なくて“自分は自分”といきがっていて。そのスタンスで作品が10枚しか売れなかったら意味はないですよね。だから聴く人の気持ちを考えて作るようになりましたし、続けたからこそ気づけたことは多いです」
――純粋に自分の唄を追求し続けた10年とも言えると思います。
「自分でも納得する活動ができたと思っているので、今は新しいスタートをきれている実感があります。それと30代になって初のアルバム『MY SOUNDS』は、20代と違うアプローチで詞と曲を作ったことでかなり苦労して。今作『FACT』は全く逆で、すごく楽しく作れました」
「30代はこうやって生きるべきだと気づけたんです」
――今作は“真実”というタイトルが示すように、セルフタイトルのような意気込みを感じました。
「曲作りも歌詞もレコーディングも、生みの苦しみがないほどスムーズでしたね。20代はとにかく攻めていたんですけど、30代は守りながら攻めるというか。それはファンや家族、仲間を守るために、どうアプローチしていくべきかを考えるようになりました」
――30代ならではの変化があったと。
「すぐに30代らしいメッセージが書けると思っていたのは甘かったです。10代から20代になった時もそうですけど、何かが劇的に変わると思っていても実際には変わらない。それと同じで35歳になって、やっと30代はこうやって生きるべきだと気づけてきました。だから人の評価は気にならなくなったし、40代になるまでに何を残せるのか楽しみです」
――このタイミングで迷いや葛藤から吹っ切れた作品が生まれたことは、すごく重要ですよね。
「まだもがいているようでは、20代は何をしていたのかとなりますからね。20代でストイックに自分と向き合ってきたことが、30代で活きてきているなと。今まではがむしゃらに一生懸命だけだったのが、“楽しく真剣”にできるようになってきました。これまでの10年で“清木場のスタイルはこれだ!” と提示することができたので、そこにとらわれる必要もないと思ってR&Bの曲調や、色んなタイプのバラードに挑戦しました」
「“あなたのイメージはグループだから”と言って済まされることもあった」
――そのR&Bの楽曲「Memory」は、今までにないタイプの曲に仕上がっています。
「ソロになってから初ですね。ただ『人生』や『軌跡』のような曲も初めてなのに、全員に聞かれるのは『Memory』で(笑)。中には『昔いたグループのような曲調だから、そろそろやりたくなったんですか?』と言われたりも(笑)。僕は全く意識していなくて、単純にどんなジャンルでも受け入れられるようになったんです。ロックを全面に打ち出してきた中で『Memory』のような曲を出すと、“どっちなの?”となってしまう。だけど今は清木場俊介という歴史があって、10年ロックをやり続けて築きあげたアーティスト像があるからできた曲ですね」
――10年続けるのは並大抵ではないですし、さらにアーティスト像を確立するのは大変なことです。
「初めはロックをやると言っても、“あなたのイメージはグループだから”と言って済まされることばかりで。それでも一人の唄うたいとして飯を食っていくというのを、やっと8年目あたりから認めてもらえるようになりましたね。そのおかげもあって10年続けられたとも思います」
「40年務めた会社を退職した父親をみて、素直にかっこいいなって」
――なるほど。アルバムの1~3曲目までは、アグレッシブなロックナンバーが揃っていますね。
「歌詞もすべてエールソングになっています。今までは自分の中で解決できない感情や思いを歌詞として叫んできたんですけど、それをクリアできるようになってきたのでポジティブなメッセージが増えたのかもしれません。これまでは、もう一人いる自分に対して“お前はどうなんだ? どうしたいんだ?”と向き合うために書くことが多かったです」
――それはハードな向き合い方でもありますね。
「結構きつかったんですけど、良いところやダメなところも、恥ずかしい部分や弱い部分とも向き合ってきたからこそ、曲の先にいるファンにより届けようと思えたんです。今の時代は、真面目な熱さや一生懸命さがダサいと思われるじゃないですか? その自分の芯すら時代に合わせていたら、絶対に廃れていく。それで通用しなければ辞める覚悟もあります。だからこそファンには正直でありたい。そこは歳をとればとるほど責任をもってやりたいですね。それは自分の親父に対して思ったことが、大きく影響しているかもしれなくて。最近40年務めた会社を退職したんですけど、素直にかっこいいと思えたんです。昔はサラリーマンなんてクソ食らえと思っていたけど、1つの会社に40年捧げて、家族のために働いたのはすごいよなって。自分が40年唄えるかといったら99.9%は不可能に近いから、その0.1%に可能性を見出していきたいです」
「“常に男らしいけど、実は女には女々しいんじゃないか”と(笑)」
――4~6曲目はミディアムナンバーやバラードが続いています。
「今回はミディアムも含めて4曲バラードがあって、色んな角度から魅せられるようにしました。長年一緒にいた人へのサンキューソングが『Shining』、別れてしまう寂しさを表現した曲、また女性目線で唄った『空に月と貴方と私』など、それぞれの曲の個性がはっきりしているのでライブで唄うのも楽しみです」
――『空に月と貴方と私』は、なぜ女性目線で歌詞を書いたんですか?
「曲自体は5年ぐらい前からあって、20代の時は女性目線の曲に違和感があったんです。でも今年聞き直してみたら、最近の自分にはできない表現をしていたので悪くないなと。それとライブだとバラードの大サビは、心を込めて唄いあげていて。それは唄い出しとの変化を出したいからなんですけど、そのために必要な歌詞って別れてしまう悲しみになったりすることが多いんです。そうしたらファンから、“常に男らしいけど、実は女には女々しいんじゃないか”と思われているみたいで(笑)。それはないだろ、と。じゃあ、女性目線で歌詞を書けば女々しいとは感じないだろうと思って書いてみたんです」
――そこもファンと作り上げていったんですね。
「自然にタイトルをつけたら、『空に月と貴方と私』には絶対ならないですからね(笑)。むしろ誰かになれるのは書きやすくて、作品作りとして色んなアプローチをして書けるので好きですね。メロディーもすごく良いから歌詞もすんなり入ってくると思います」
「キャッチーなメロディーに、あえて熱いメッセージをのせたんです」
――8曲目『MY LIFE』の唄い出しの歌詞「つまらねえだろ? 飛び出せない生き方は…。」は、清木場さんらしい一節ですよね。
「居酒屋に行くと、だいたいの男が愚痴を言っているのに腹立って(笑)。女性の方がたくましいなと本当に思いますね。女性は楽しむために飲むけど、男は忘れられなくて飲むみたいな。そんなことを言っている暇は自分にはないし、愚痴を言ったところで現状は何も変わらないから努力するしかない。なので、そういった人たちへ向けたエールソングです」
――それと語尾に「…」があるのは意外でした。
「そうなんです。僕はこんなに弱くないので普段だったらつけないんですけど、『…』は“迷い”なんです。その人達は酒を浴びて愚痴を言っても、また次の日会社に行くだろうし、そしたらまた愚痴を言っちゃう。だから弱々しい気持ちや、ブレている感情を表したいなと。あと、このメッセージに『Pride』のようなアグレッシブな曲調で唄うと、お腹いっぱいなっちゃうでしょ? だから聴きやすいキャッチーなポップソングに乗せることで、聞いているうちに力強いメッセージに気づいてもらえたらいいなと。20代の頃だったら、間違いなくアグレッシブな曲調にしていたと思うので、こういった遊び心を表現できるようになったのも30代ならでは。今回の収録曲にはひとつひとつ理由があったので、そこへ向かっていくのが楽しかったです。これまでは“このテーマだから、こういった曲がいる”と当てはめていた感じだったので」
「人は強さばかりではなく、弱さを出せて本物になれる」
――今作の「FACT」は、聴き終えた時の充足感がとてもあります。それこそ、ひとりの人間の人生が詰まっているというか。
「アルバム1枚を通して喜怒哀楽を表現するのは、常に大きなテーマでもあります。人は強さばかりではなくて、弱さを出せて本物になれると思っているので。だから、ありのままの自分を表現しようと思っています」
――今作のリリースツアーの名古屋編は、10月31日(土) Zepp Nagoyaです。どんなライブになりそうですか?
「アルバムが完成して皆さんのもとに届いても、70%ぐらいの完成度だと思っていて。それは、リリースツアーが終わったら完パケという意識を持っているからです。この充実したアルバムを完結させるために、早くライブがしたくてウズウズしてるし、また1つ階段を登れるんだろうなと。ただ、良い意味で所詮音楽なんです。だから、お客さんは自分の人生と向き合って聞く必要はないんです。音楽は楽しんで聴くものだし、“清木場のライブは清木場と対峙して観なくちゃ”と思わなくていいんで(笑)。人に説教するつもりは全くなくて、自分がかっこ悪くならないためにあえてプレッシャーをかけているんです。だからリラックスして観に来てほしいしですね」
インタビュー・文:菊池嘉人(ぴあ)
(10月29日更新)