ホーム > インタビュー&レポート > 「音楽と仲直りというか、ちょっといま両思いの時期かも」 かりゆし58、3年ぶりのアルバムは バンド活動の危機を乗り越えて、改めて音楽に向き合うことで完成

「音楽と仲直りというか、ちょっといま両思いの時期かも」
かりゆし58、3年ぶりのアルバムは
バンド活動の危機を乗り越えて、改めて音楽に向き合うことで完成

沖縄出身のロックバンド、かりゆし58。人と人との優しい繋がりや思いを歌い、その真っ直ぐな歌が多くの人の心を響かせてきた。しかし記念すべき10周年を迎える年である2015年、ドラムの中村洋貴が病気療養のためバンド活動を一時離れることが発表された。バンドとして苦境に立たされながらも活動を止めずにきたかりゆし58だが、新曲を生み出すことはできなかった。そんな彼らが3年ぶりにアルバム『変わり良し、代わりなし』を発表した。この3年間、どのような思いがあったのか、そしてどんな心境により本作を作るに至ったのか、フロントマンの前川真悟、ギターの新屋行裕から話を聞いた。

――中村さんが病気療養によりバンド活動を休み中ということもあり、アルバムもひさびさで3年ぶりのリリースとなりました。このアルバムを出すきっかけを教えて頂けますか?
前川「洋貴の病気のことがわかったのが10周年を迎える年だったんです。10周年は通過点でもあるけど、ゴールでもあったと思うんだけど、そのゴールテープを綺麗に切れなかった感じがあったんです。だからスタートはしっかりしたいねってどこかで感じつつ、洋貴がいない状態で作品を作ることがスタートと言えるんだろうかということを考えたのがこの間の2年だったんです。今年、結成からちょうど干支が1周したんです。このタイミングで何も出さないのもどうかと思っていろいろ考えたけど、最終的にやろうよということで作られたアルバムです」
 
――中村さんはどのような関わり方をされたんでしょうか?
前川「洋貴がコーラスを何曲か。洋貴の声が乗るのは最高だけど、洋貴本人もそれで納得いくかなとも考えましたね。そんなとき直樹が作った『流星タイムマシン』という曲を、行裕とツインボーカルで歌って、そのミュージックビデオを洋貴が何週間もかけて作ったジオラマで撮影したんです。これだったら4人の曲といえると思って、この曲を旗印にアルバムを世の中に打ち出そうと折り合いをつけ、ひさしぶりに一歩を踏み出すことができました」
 
――MV観ましたけど、ジオラマの完成度がすごいですよね!中村さんはもともとああいうことは得意だったんですか?
前川「少し前に行裕と洋貴がファンクラブ会報用に手作りでライブで使うようなお立ち台を作ったんですけど、途中で飽きて、これは何の形なの?というようなものを作ってくるぐらいのレベルです(笑)。でも決意を固めた人が作ったものは違いましたね」
新屋「(洋貴が)俺が設計図を書いたから大丈夫だって言ってました(笑)。キットじゃなくて洋貴が自分で設計図を書いたんですよ。腕時計から時計外して時計台にはめたり、全部の窓にきちんとガラスをはめたりして」
 
――アルバムの『変わり良し、代わりなし』というタイトルからも感じますが、全体的に肩の力の抜けた自然体の作品だと感じます。
前川「10周年を迎えるとき、洋貴の体に象徴されるいろんなことが積みあがって、磨り減ってしまったと感じたんです。俺たちは人生が豊かになる方向を目指して一生懸命つぎ込んできたつもりだったけど、もしかしたら違ったんじゃないかと。洋貴の症状っていうのは、ストレスからも作用するとわかって、こんなに自分の体を、心をいじめるようなことをやってきた10年間って何だったんだろうって。だけど、俺たちは間違った道をここまで来てしまったみたいに過ごすともうやってられなくなるから、1回ここにいる状態を肯定してみようと思ったんです。自分が変わってしまうことも、変わっていくことも肯定しようと。だって結局10年前も10年後も今も、ああでもないこうでもないって言ってる自分がここにいるし、代わりに自分を生きていく人はいないから、変わりいく自分も可愛がろうって思ったんです。12年目に向かって作品を作るとしたら、それをそのままタイトルにしようと思ったんです」
 
――タイトルの言葉は、そのまま自分が悩んで見つけた答えでもあるんですね。
前川「ひとつの場所にずっといたのに、そこにいた一人が欠けたから、自分の中でこれが良かったのか悪かったのか探すためには、いろんな場所に出て、自分が10年間やってきたことの結晶を確かめにいかないと折り合いがつかなったんです。人の忘年会に言って居酒屋で歌を歌うこともいっぱいあったし、メンバー以外と演奏することも増えたし、自分の聞いてきた音楽とは違う人たちと音楽を挟んで対峙することもありました。そうして見つけたのが、“音楽”のために音楽をやるということ。ミュージシャンがやるべきことは、世の中にヒット曲を出すことでも、他のミュージシャンに勝つことでもなく、音楽好きがひとりでも増える作業をしていけばいいんだって。音楽好きがひとりでも増えれば俺たちは死なないんだなって。俺もレゲエをとっても好きになったし、ヒップホップもジャズも好きになった。どんな音楽でも、それによって音楽好きが増えるのであれば、きっと音楽が許してくれるだろうと思って、今回は曲からアレンジまでしました。だからちょっと色は変わってみえるけど、手触りは一緒だと思います」
新屋「やっぱ動かないといけなかったし、自分としてはお客さんの顔が浮かんだんです。たぶん新曲を聴きたいだろうなっていうのは思いました」
 
――仰るようにこれまでのかりゆしとは少し色の違う曲も入っていると思います。そういう意味ではチャレンジという部分もあったんじゃないですか?
前川「今の音楽は、10年前に自分たちが右も左も分からないまま始めた音楽から積み上げていったんですよね。そこに土台を敷いてしまって、いつの間にかそこから動けなくなってしまった自分たちがいたんです。最初に形になった曲のせいで、次の曲はこの延長線上になきゃいけないと、10年前の自分たちが足かせになってるんじゃないかと思ったんです。だけど今回は考え方を変えて、10年間やってきたことがあるから、10年間でやらなかったことも残ってる。今度はそっちに行ってもいいかなと。挑戦というより楽しみながらの冒険と言った方が正しいかもしれないです」
 
――2年間の間に、いろんな人と交流を持ったことも刺激になりましたか?
前川「はい、沖縄を離れてはじめて沖縄の良さがわかるというか。直樹が面白いことを作ってるなって気づいたり。直樹はメタルが好きなんだけど、自分の好きな音楽をかりゆしに投影すると色が違ってしまうかもしれないと、俺たちみんな口に出したわけじゃないけどどっかで思ってたと思うんです。でも好きなこと好きにやるのを止めたら、音楽は悲しむんじゃない?と思って、好きにやったら今回はこうなりました」
新屋「結果、これまで以上によくなりましたね。それにどんな音楽でも、4人でやったらこっちに落ち着くんだなっていうのは、お客さんも感じてくれると思ったんです」
前川「かりゆし58を好きでいてくれた人にも救われましたね。これまで行裕って売れるとか売れないとかじゃなくて、人としてまともな人生を送るというのを目標にしてきていて(笑)。その中で3歳からの幼馴染の洋貴がバンドを休養することになって。いろんなことが作用してるとは思うけど、バンド活動が洋貴の何かを蝕んだことは間違いない。それもあって行裕自身はちょっと楽しくない状態でギターを弾いてる。それにお金を払って拍手をしてくれる人がいる。こんな気持ちで弾いてるやつの音楽が金を取るって詐欺じゃないかって、罪悪感がひどい時期があったんです。そんなとき、リリースも何もないタイミングでツアーを周ったんです。新曲がないから、新しい曲だからと緊張することもなく思いっきりやったんですよね。そうしたら直樹も行裕も首がちぎれるんじゃないかってぐらい頭振って楽しんで、お客さんもそれを見て楽しんでくれて。新しいものを作らなくても、人は瞬間のライブを楽しんでくれる。だとしたら全く新しいものを作ってもその瞬間を共有できれば怖くないのかなって勇気ももらったし。曲だけじゃなくて、そこにいる空気みたいなものを愛してくれるというのを感じさせてもらったんです。だから今回のアルバムの向かう先はそこだったんです。ライブハウスで直樹や行裕が楽しくやれるもの。俺も最近マイクを持ったら楽しくなるからって、直樹がベース弾く回数を増やして真悟を自由に動けるようにするよ、とか。どうやったら楽しくなるかをサウンドのもとにしました」
 
――新屋さん自身は、罪悪感が吹っ切れたのはどういった理由だと思っていますか?
新屋「去年は沖縄に帰る機会が増えて、洋貴とも話をすることも多くなったんです。さっき真悟が話したように、当初はバンドをやったから病気になったんだっていうマインドだったんですよね。どうしたらいいか分からないし、洋貴がいないバンドがつまらなくなるけど、いろんな現実はくるし。そんなとき洋貴と腹わっていろいろ話したり、先輩の話を聞いたり、いろんなライブに行ったりして、音楽に救われたんだと思います。今回のアルバムではその恩返しをやろうかなって思ったんです」
 
――新屋さんは『髪を切る』という曲で作詞・作曲と、歌ってもいますもんね。
前川「今回はテーマを出し合って曲を作っていったんですけど、行裕はメロディも歌詞もないときからテーマだけは決めてたんです。髪を切りにいくときに曲を作るって(笑)。後半の『FFF』も行裕から出てきたものなんですけど、地元帰ったときに行った忘年会で、ライブハウスも行かないしCDも買わないやつが、昔から同じ歌をカラオケで歌うんですよ。それがめっちゃいいって言って。忘年会で音楽が好きじゃないやつが歌える曲が書きたいって作ったんです」
 
――なぜ髪を切るときに曲を作ろうと思ったんですか?
新屋「まだ切ろうとも思ってないときにテーマ決めたんです(笑)。6年間伸ばしたんですけど、もし切るとしたらどんな心境になるんだろうって。あと優しげな曲を書きたいって思ったんですよね」
 
――実際に切ってから曲を書いたんですか?
新屋「曲を書いたのは切る前です。レコーディングする前に切ってみようと。切ってから、あ、こんな感じなんだって思って歌いました」
 
――ほかにない雰囲気で良いフックになってますよね。
前川「ちょうど『変わり良し、代わりなし』っていうタイトルの“変わり良し”の部分を前半で、後半を地元の風景とか“代わりなし”の部分にしようと思っていて、その切り替えの部分を行裕のこの曲にしたんです。誰かが、行裕の曲はほのぼのした日常の一幕を描いてるような歌詞なのに、世界でひとりぼっちみたいな何かが宿ってるって言ってたんですけど、メロディもいいし、行裕は不思議な世界観を持ってると思うんですよね」
 
――切った後に歌ってみてどうでした?
新屋「より分からなくなったというか。たぶんこれからいろんな感情がついていくと思います。世界的な大きなことを考えて歌うかもしれないし、本当に身近な大好きな人に対してだったらラブソングになるだろうし。ライブでまだ歌ったことがないので、どうなるかまだ分からないんですよね。これを歌うときどんな感情になるか楽しみです。ライブで歌うかは分からないですけど(笑)」
前川「こいつはそれが危険なんですよ。歌は緊張するからいやだっていうときがあるんです(笑)」
 
――ぜひ歌ってください!(笑) 『ホームゲーム』のように真っ直ぐに自分らしさを肯定できるような曲もこのアルバムらしいなと思います。
前川「この曲がアルバムの中で1番最初に形になったんです。沖縄に帰ったときに洋貴に『新しいアルバムを作ろうと思うけどどう思う?』って聞いたんです。洋貴がどう思うかによって、次の一歩を考えるって。そしたら洋貴は作った方がいいよ、当然でしょって。その話をしたのが楽器が置いてある飲み屋だったから、『こんな曲があるんだ』って弾いてみたんです。他の友達もいたんですけど、別のやつがギターを弾き始めて、洋貴もドラムを叩いて、そこで初めて洋貴と一緒に自分の頭の中にあったイメージを音として鳴らしたんです。そしたら洋貴がすごくいいからこれアルバムに入れようよって言って、そこからどんどん『変わり良し、代わりなし』って言葉がタイトルになったり、行裕や直樹の曲が出来たりと進むきっかけになった曲です」
 
――ちょっと変わったところでいうと『マンゴーウーマン ゴー!ゴー!ゴー!』とかも。
前川「今回は曲の成り立ちが今までと違うことが多かったんです。この曲は、宮古島の先輩がいきなり電話くれたことから作ったんですが、宮古島はロカビリーが盛んなんですよ。三線よりウッドベースの方が多いと言われてるぐらい。宮古島は宮崎の“太陽のタマゴ”に負けないぐらい糖度が高いらしいんですけど、ゆる~い島だから一致団結して売り出すことができないと。でも『だんご三兄弟』みたいにツイストで踊ってマンゴーのことを歌ったらちょっと空気が変わるかもしれないから、真悟、マンゴーツイスターズというバンドを組め、と。お前はベースで、ギターはBEGINの優さん、ドラムは宮古島にずっと住んでる江川ゲンタさん、ボーカルは宮古島出身の下地イサムさん。それでマンゴーの曲作れって、優さんとイサムさんと俺でそれぞれ1曲ずつ3曲書いたんですよ。その曲はテイクフリーにしてて、農協の人が街の人にCD-Rで焼いて渡すみたいな感じで使えばいいと。だけどせっかくだから俺たちがこんなことをやってるよって、今こうやって喋れるように、かりゆしバージョンとしてアルバムにも入れてしまいました」
 
――今回の収録曲は地元の仲間たちとのつながりの中から生まれた曲も多いんですね。
前川「『ホームゲーム』は洋貴とだし、『ユクイウタ』は地元の仲間から言われて作った曲ですね。俺の地元はサトウキビばっかりの田舎町で、10代後半から20歳ぐらいになるとみんなどんどん海を越えて都会に行ってしまうんですよ。そんな街なんだけど4年に1回祭りがあって、それをきっかけに帰ってきてくれたら嬉しい。だから真悟、帰りたくなる曲を書いてって言われて。今や世界中の音楽が世界中の人に無料で届く時代に、近くの人にピンポイントで作ってみたんです。そうすると世路紺でくれる人の顔が見えるし、その人のためっていう明確なイメージがあるから言葉に困らない。今回はそういう曲も何曲か入ってます」
 
――いろいろなこだわりや縛りがなくなった中でのレコーディングは楽しかったんじゃないですか?
新屋「そうですね。自分から出てきたものを大切にしようと思ったんです。フレーズも手癖から作ってたりしてますしね。直樹にもアドバイスしたときも、いや俺はこれが弾きたいんだって言って。自分から1番最初に出てきたものを大事にしたいっていうのがあったと思います」
前川「今回のアルバムはああでもないこうでもないと言うより、あれもしようこれもしようってやろうと思っていて。だって今回納得がいかなくてもまた次作るしって脳みそだったんです。音楽と仲直りというか、ちょっといま両思いの時期かも」
新屋「自分たちでも改めてアルバムっていいなって思ったんです。1枚の作品というか、アルバムってこういう意味なんだって思えた作品なので、ぜひひとりでも多くの人に、全体の流れとして聞いてほしいなって思います」



インタビュー・文:小坂井友美(ぴあ)



(12月28日更新)


Check

Release


album『変わり良し、代わりなし』

3000円
Pacific Records
LDCD-50138

LIVE

ハイサイロード2017-18〜変わり良し、代わりなし〜

1月8日(月・祝) 17:00
ダイアモンドホール
オールスタンディング-4000円(整理番号付・別途ドリンク代必要)
※6歳以上有料。
サンデーフォークプロモーション[TEL]052-320-9100
Pコード:342-522

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