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木ノ下歌舞伎 劇団10周年インタビュー
「歌舞伎の価値観がどんどん壊されていく爽快さがある」 (1/2)

古典である歌舞伎を現代演劇として上演する京都の劇団「木ノ下歌舞伎」が、今年旗揚げ10周年を迎えた。これまで歌舞伎の新しい可能性を追求し続け、現代における歌舞伎の面白さを伝えてきた。その10周年を記念して「木ノ下“大”歌舞伎」という一大企画を二年間に渡って行う。これまでタッグを組んできた5人の演出家(杉原邦生、きたまり、白神ももこ、多田淳之介、糸井幸之介)との新作、再演を連続的に上演するという企画だ。
その幕開けとなる演目が、2012年に初演された「義経千本桜(よしつねせんぼんさくら)~渡海屋(とかいや)・大物浦(だいもつうら)~」。東京デスロック主宰の多田淳之介が演出を務める。今回は木ノ下歌舞伎主宰の木ノ下裕一に10年を振り返ってもらい、歌舞伎を現代に上演することの魅力について聞いた。なんと話はディズニーシーのショーの面白さについてまで渡った。

「演出家が変わるとこんなに歌舞伎も変わるんだと発見した

――木ノ下歌舞伎は今年で10周年を迎えますが、活動を振り返ってみてどうですか?
「後半5年は特に濃密で刺激的な時間でした。初期は自分で演出をしていたんですけど、そこから様々な演出家を招いて作るスタイルに変わって、今ではそれが木ノ下歌舞伎のセオリーになっていて。それによって歌舞伎の楽しさを広げていくことができると確信しています」

――なぜ自分で手掛けずに演出家を招いて作品を作ろうと思ったんですか?
「歌舞伎を相手にするには、1人の脳みそでは限界があると痛感したんです。そこに現代演劇の演出家を招けば、歌舞伎の可能性をどんどん広げていけるんじゃないかと。このやり方の何が面白いかというと、今まで自分にあった歌舞伎の価値観がどんどん壊されていく爽快さがある。ある作品に対してこの視点しかないと思っていても、演出家から思いもよらない切り口が生まれて、それが歌舞伎の学問的な意味でも大きかったりするんです」

――演出家の価値観が入ることによって、歌舞伎の解釈に思わぬ広がりがでるんですね。
「演出家が変わればこんなにも歌舞伎が変わるんだと身をもって体験したんです。なので既成概念が壊されることで木ノ下歌舞伎の面白さにも繋がっていますし、歌舞伎の新しい可能性を発見し続けています」

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「黒塚」

「木ノ下歌舞伎はエンタメです!(笑)

――木ノ下歌舞伎は、歌舞伎を現代の時代性に合わせてアップデートし現代演劇として上演します。木ノ下さんは古典芸能へ対する莫大な知識をもって歌舞伎を再構築していますが、そこにはしっかりとエンタメ性もありますよね。だから歌舞伎に興味がない人も現代演劇として楽しめるんだと思います。
「ちなみに、今おっしゃったエンタメというのはどういった定義ですか?」

――木ノ下歌舞伎が上演している作品が、いち観客として楽しめるかどうかですかね。それに加えて作品が右から左へすり抜けないことも大事なことだと思っています。「次も観たい!」と思わせる原動力があるモノがエンタメですかね。
「なるほど(笑)。そういう意味なら、木ノ下歌舞伎はエンタメです!」

――おお(笑)。
「古典の現代化といった時にいくつかの事例があるんです。例えば劇団☆新感線の『いのうえ歌舞伎』はもちろんエンタメでしょ? と同時に学者と舞台人が共同で作った歌舞伎作品もたくさんあるんですよ。それはだいたいが歴史的な観点のみの動機で作られていて。そうした学術的な意味だけの現代化は、エンタメに特化した歌舞伎とは違う流れなんです。その重要性ももちろん分かるんですけど、上演したという事実にしか意味がないと『だから何?』となってしまう。歴史的に正しかったとしても、現代に上演する理由をすっ飛ばしている作品ばかりだった。そういう意味で木ノ下歌舞伎は、学術的な視線とエンタメとしての視線がしっかり共存しているんです。その両方の見地に立って今回はどう上演すべきかを考えていて、それが現代人の胸に届かなれば意味がない。そのバランスの狭間で試行錯誤しているので木ノ下歌舞伎はエンタメでしょうね(笑)」

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「黒塚」

「もっと知っていればもっと楽しめたのに、と後悔させたいんです(笑)

――見事な説明をありがとうございます(笑)。木ノ下歌舞伎は、例えば古語のセリフを現代口語にしたり、ラップやエレクトロミュージックを取り入れたりして現代化していると言えることも可能です。ただ、そのすべてに学術的な見地からみた理由付けがありますよね。
「そうですね、そこはすごく大事にしています。歌舞伎を分かりやすくするために現代化するのはすごく簡単で、例えば物語の設定をサラリーマンの話に置き換えちゃうとか。『黒塚』を老人介護問題に置き換えちゃうとか。いや、それはそれで面白いか(笑)。ただ設定を置き換えて理解はしやすくなるかもしれないけど、そこに意味はないですよね。何を表現したくて置き換えたのかが重要で、現代口語のセリフがあることも伝えたいメッセージがあるからなんです」

――そのバランスはかなり苦労されるんですね。だから木ノ下歌舞伎の作品は、歌舞伎に縁がない人が観ても楽しめるんだと思います。そうしたエンタメ性もあるからこそ劇団や歌舞伎に対して愛着を感じられるんじゃないかと。
「誰が観ても楽しめる作品というのは大事にしているんですけど、同時に分かる人だけ分かるモノも意外と好きなんです。今考えると前半の5年でやっていた僕の演出作品はそんな感じでした。なぜ大事かと言うと、何も勉強せずに観て歌舞伎の魅力を100%受けとれるのは嘘ですからね、それは不公平だなと思うんです。人って何かを理解するために努力をするわけじゃないですか。それは演劇だけではなく人とのコミュニケーションやこうしたインタビューもそうです。何かを分かろうとする為には、歩み寄ることが必要なわけです。なので歌舞伎に歩み寄ろうとしている人が分かる仕掛けをどの作品にも入れています。歌舞伎好きの人が観たら、思わずニヤリとしてしまうシーンというか」

――どの作品にもですか!?
「例えば『黒塚』で言うと、あれは能の三段構成になってるんですよ。まず、ことの発端である前場(まえば)があり、そしてお婆ちゃんの過去を表現する間狂言的なシーンがあり、後場(のちば)では鬼に変身したお婆ちゃんの狂いの物語へと突入するんです。そこでほんの少しの知識があればすべてが繋がるという遊び心を入れました。ただ、それが分からなかったとしても楽しめる作品を上演している自信はあります。だから『もっと色々知っていれば楽しめたのに』と後悔させたいですよね(笑)。それがまた次観に行く原動力になればなと思っていますし、お客さんと作り手も一緒に向上していけたらいいなと。勉強といったら堅苦しいですけど、人参が目の前にあると走れるみたいなことです。もちろん、大事なのは楽しみながらという点ですけどね」

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「勧進帳」(2010年) 撮影:東直子

「ディズニーのショーを観て批評性とエンタメは同居できるんだ!と

――これまで上演してきた作品で、木ノ下さんにとってターニングポイントとなった作品はなんですか?
「2010年の杉原邦生さんが演出した『勧進帳』ですね。歌舞伎完全コピー稽古をはじめたのもこの時なんです。そうした手法的な意味でのターニングポイントだったのと同時に、先ほど話した批評性とエンタメを体現できるきっかけとなった出来事がありました。邦生さんはすごくディズニーが好きで、当時のキャストの1人にディズニーシーのショーに出ている子がいたんです」

――確か邦生さんってEXILEもお好きでしたよね?
「そうです、そうです。エンタメがとてもお好きな方ですよ。当時邦生さんとショーを観にディズニーシーに行ったんですけど、それがリトルマーメイドのショーやったんです。ステージには宙吊りになった人魚が登場して、その周りを色んな魚たちが泳いでいました。しかも魚たちは人力で動かしていて、スタッフの方が操作している所も丸見えなんです。そこにスピーカーからナレーションが流れてきた時に文楽やなと思ったんですよね。つまり人形遣いがいて、その姿は見えているので同じ構造なんです。人形遣いの姿という虚構を露呈していることによってリアルを獲得しているわけなので、すごく批評性のある舞台だと思ったんです」

――ディズニーシーでリトルマーメイドのショーを観て文楽だと感じるのは、木ノ下さんの古典芸能へ対する愛があってこそですね。
「文楽と通ずるモノがディズニーにあったんですね。しかも1つのショーとしても素晴らしくて、すごく泣けて感動的でした。しっかり批評性のある作品でありながら、それがちゃんとエンターテインメントとして成立していた。その時に邦生さんがなぜディズニーを好きか分かった。学術的な観点とエンターテインメントという事は決して別ではなくて、両立することによって作品の強度が増すんだと気づけたんです。その時に邦生さんとの関係性もグッと濃くなりましたし、それを分岐点に批評性とエンタメが同居した作品を目指せばいいんだと思えました」

――そうした様々な演出家との出会いがあったからこそ、今の木ノ下歌舞伎の面白さがあると。
「取材で偉そうに『知的好奇心の復権ですよ』とか『歌舞伎の批評性とエンターテインメントは両立するんです』とか『歌舞伎と現代演劇を繋げるものを作りたい』と言ってますけど、それは全部木ノ下歌舞伎を続けてきた中で思ったことです。旗揚げの時から確信していたことではなくて、稽古を繰り返したり演出家を招いたりして発見したことが蓄積されている。それは僕一人じゃなくて、この10年間で演出家の方たちと発見してきたことなんです。『歌舞伎のセリフと現代口語の絶妙なバランスがすごいですね』とよく言われるんですけど、それは邦生さんの発明やしね。だから木ノ下歌舞伎の取り組み方は稀有やと思いますし、意味があるんです」
 




(5月26日更新)


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木ノ下歌舞伎『義経千本桜』より「渡海屋・大物浦の場面」(2012年) 撮影:清水俊洋
主宰の木ノ下裕一

STAGE DATA

木ノ下歌舞伎
「義経千本桜―渡海屋・大物浦―」
名古屋公演

▼5月27日(金) 19:00、28日(土) 13:00/18:00、29日(日) 15:00、30日(月) 19:00
愛知県芸術劇場 小ホール
自由席-3000円
出演:大石将弘/大川潤子/榊原毅/佐藤誠/佐山和泉/武谷公雄/立蔵葉子/夏目慎也/山本雅幸
木ノ下歌舞伎[TEL]050(3636)3734

Pコード:449-843

チケット情報はこちら


木ノ下歌舞伎
「義経千本桜―渡海屋・大物浦―」
豊川公演

▼6月18日(土) 14:00
豊川市御津文化会館
一般-2000円 U-24-1000円
出演:大石将弘/大川潤子/榊原毅/佐藤誠/佐山和泉/武谷公雄/立蔵葉子/夏目慎也/山本雅幸
豊川市市民部文化振興課[TEL]0533(84)8411
※チケットぴあでの取り扱いはなし。チケットの購入は木ノ下歌舞伎のHPにて。


過去のインタビュー

木ノ下歌舞伎「黒塚」 語り手:木ノ下裕一
http://chubu.pia.co.jp/interview/stage/2015-01/post-101.html