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舞台「ペコロスの母に会いに行く」インタビュー
「家族がいたから、ボケてしまった事も悪くないと思えるんです」

岡野雄一・原作の漫画「ペコロスの母に会いに行く」は、実際に自身が体験した認知症の母との温かくも、どこかクスッと笑ってしまう日々を描いたエッセイ漫画。認知症というテーマを扱いながらも、作品のテイストは全く重くなく、時に笑い、時にほっこりとする物語によって大きな支持を受ける作品になった。2013年には出演に岩松了、加瀬亮、竹中直人などを迎えて映画化されたほどだ。そして去年、そんな人気漫画がついに初の舞台化として上演された。原作の世界観はそのままに俳優が温度感をもって演じることで、作品の奥深い魅力をさらに表現する作品となった。さらに初演の反響を受けての再演が見事決定!主人公の岡野ユウイチ=ペコロスを演じる田村亮と、ペコロスの母・ミツエを演じる藤田弓子に話を聞いた。

――昨年の初演に引き続き、今年は再演という形になります。藤田さんは2年連続で主人公であるペコロスの母・ミツエを演じます。藤田さんはどんな気持ちで今回の再演にのぞまれますか?

藤田「ミツエは89歳の役で実際にはまだ15年以上あるんですけど(笑)、私より少し下の世代の方たちは実際に認知症になっている親の世話をしたり、私たちの世代ですと自分のことで精一杯という話を周りからよく聞きます。現実でも非常にシビアな問題として認知症はある訳ですが、重くなりがちなテーマをここまで明るく笑って観られる作品は中々ないと思います。だからこそ、本当に素晴らしい作品なんです。実際にそうした問題にぶつかっている人には心が軽くなってもらえたら嬉しいですし、誰にでも訪れる可能性のあることだからこそ、年齢や性別を問わずたくさんの人に観てほしいです」

――確かに昨年の舞台を観劇しましたが、テーマと相反してすごく肩の力を抜いて観れる作品だと感じました。

藤田「私自身女優として舞台に立って50年が経ちましたが、ずっと言っているのは“代表作はこれから作る”ということです。それを言い続けてきた中で70歳を過ぎた頃に、こうした素晴らしい役に出会えた事はとても嬉しいです。この作品が私の代表作の1つになるという実感がありますので、丁寧に、大事に育てて行きたいと思っています。去年観て頂いた方には“力が湧いた”とか、“現実は厳しいけれど、親がなったとしても、自分がなったとしても、ちゃんと命を全うしていく勇気が湧いた”と言ってくださった事はとても心に残っています。そうした作品をまた再演できる喜びは一潮です」

――田村さんはミツエの息子であるペコロス役で、今年初出演となりますね。

田村「去年は呼ばれませんでしたが(笑)、実はペコロスの漫画は新聞で連載されていた頃から読んでいたんです。その時から介護、認知症をテーマにした作品は珍しいなと、とても興味をもっていました。私のハゲのカツラが見どころだとおっしゃる方もいますが(笑)、その他にみどころはたくさんありますので期待してください」

――田村さんがカツラを被って演技されるのは初だという事ですが、かつらで演技をされるお気持ちはどうですか?

田村「とても似合っていました(笑)。カツラをかぶっている姿を見たら可愛くて、とても愛着がわきました。ぜひ、私のカツラ姿がどのような感じかを観にきてください(笑)」

――お二人はこれまでに共演された経験はありますか?

藤田「実は40年ぐらい前に一度共演していて、恋人というか、そうした間柄に近い役を演じました。私たち年齢はだいたい同じなんですけど、今度は親子を演じるんですよ(笑)。まさか親子関係で、再び40年後に共演するとは思わなかったですね(笑)」

田村「名古屋では初共演になるので、それも嬉しいです」

――田村さんは息子のユウイチ役だけでなく、ミツエの夫役も演じるんですよね。

田村「そうなんですよ。実はミツエの夫役もするので、子も演じ、親も演じるという形です。夫役の時はカツラをとって登場しますので、それも楽しみにしていてください(笑)」

藤田「父親の時の姿もすごく素敵です。ハゲになると息子で、髪の毛があると父親になるのも不思議な感じですよね(笑)」

――田村さんは演じるペコロスをどんな人物だと感じていますか?

田村「心穏やかな方じゃないかなと思っています。介護を一生懸命することを義務としてしていなくて、それが自然な事だと思っていますからね。ペコロスの孫がいるんですけど、彼もすごく優しい人間なんです。それはペコロスを見てきたからだと思うので、そういった彼の滲み出る人柄みたいなモノが伝達しているのかなと思います」

――確かにペコロスのような穏やかで暖かい人柄でありたいなと思います。

田村「やっぱり彼のネガティブなことをポジティブに変えて笑いにする部分は、彼の一番の魅力かもしれませんね。舞台でもかなり笑える部分があると思っています。藤田さんは作品がしんみりしちゃうと原作と離れてしまうから明るく演技したいと言っているので、そうしたスタンスも演技にでてくると思います」

藤田「そもそもはミツエが明るくてユーモラスな人なんです。そうした人柄によって周りにいる人たちを明るくしていく人なので、そこは大きいと思いますね。息子たちや亡くなった旦那さんへの愛を感じとれて、家族として本質的に繋がっていたんだという事がよくわかります。だからボケたとしても、旦那さんと出会えたことやペコロスを生めたことがあるから、ボケることも悪くないという風に思えているんだと思います。こういうテーマの作品は悲しく切なく作ろうと思ったらどれだけでもできちゃうんですけど、笑えて元気になれて、ほっこり心が温まるような作品ですので、ぜひ劇場に足を運んでください」

――そして、中日劇場は来年の3月で惜しくも閉館となります。藤田さんはこれまで中日劇場と縁のある活動をされてきましたよね。最後に劇場への思いを聞かせてください。

藤田「私は中日劇場が大好きで、さっき“代表作はこれから”と言ったんですけど“大好きな作品”で何度も中日劇場のステージに立っています。特に印象に残っているのは山田五十鈴さんと一緒にやった作品です。観客全員を泣かせたと言われるほどの作品だったので、舞台中にバックを開けてハンカチをだす音がすごく聞こえるんですよ。本当にそれぐらいの事が起きた舞台で。そうした作品で舞台に立てた場所なのでとても思い入れがあるからこそ、閉館は“なんで!?”と叫びたい気持ちもあります。だからこそ、この中日劇場の舞台に最後に立てることがとても嬉しいです」


インタビュー・文:菊池嘉人(ぴあ)




(10月 3日更新)


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STAGE

「ペコロスの母に会いに行く」

10月19日(木)~21日(土) (木)11:00 (金)(土)11:00/16:00
中日劇場
A席-8500円 B席-5000円
原作:岡野雄一 脚本:道又力 演出:喰始 出演:藤田弓子/田村亮/木村理恵/佐藤正宏/酒井敏也/室龍規/外山高士/西川鯉之亟/稲吉靖司/冨田恵子/眞乃ゆりあ/汐美真帆/西川鯉娘/他
Pコード:560-199

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