ホーム > インタビュー&レポート > 怖くて、笑えて、ちょっと懐かしい!? ヨーロッパ企画がみせるオカルトと演劇の邂逅
いかに細かい話を積んでいくかを研究中。登場人物はみんな怪奇現象に遭遇かも!?
ーー今回のテーマは「オカルト青春コメディ」ということで、具体的にはどんなストーリーですか?
上田「僕らの場合、稽古でまだ台本がない状態で劇団員みんながフリーでやり合いながら決まっていくことも多いんです。今はもうじき稽古が始まるくらいのタイミングなので、はっきりしたことはなかなか申し上げづらいんですが、旧校舎に77不思議がある学校があって、それに立ち向かう先生と生徒たちの話です」
ーー実際に77個のエピソードが登場するんですか?
上田「そうしたい…!上演時間内に出来るだけたくさんやるっていうのが目的ですね。以前「ビルのゲーツ」という(ひたすらビルを登るのだが、1フロア登るゲートごとにエピソードを重ねていく)お芝居をやったことがあって、あれが40フロアくらいあったので「あ、77個もいけるかもしれん!?」って思っています」
永野「あ、でも意外と「ビルのゲーツ」でも40か。多いな…」
ーー倍近い数になってきますが…。
上田「そうですね。なので、いかに細かい話を積んでいくかを研究中です。例えば「参観日にモンスターペアレンツが来たら、本当にモンスターでしたよ!」って会話に出すだけでも1カウントしていいみたいな」
一同笑
上田「そういう感じで、旧校舎で起こる77不思議に先生たちが生徒たちを守るべく行動するという話です」
ーーまだ稽古入られてないということなんですが、永野さん、中川さんの役どころはある程度決まっているんですか?
上田「僕の中で二つ三つ考えてはいます。でも、「この人をこれ」って決める時もあるんですが、いくつか用意した役を稽古場でやってもらって決めることが多いんですよね」
永野「団員が大体みんな40歳超えているんで、たぶん今回は先生の役になるって情報を小耳に挟んでいて、僕先生やりたいと思ってたんです。そうしたら、この間ミーティングで「小豆洗い(妖怪)の役かもしれない」って言われて…」
一同爆笑
ーーすっごく切ない顔(笑)。
永野「先生を演じるって期待があったので…」
上田「へえ、やりたかったんだ!」
永野「ええ、なので正直「小豆洗いか…」とは思いましたね(笑)でも妖怪演じるっていうのも、まあ…」
上田「でも、だとすると今回77個エピソードがあるじゃないですか。だから例えばエピソード1で先生だったけど、エピソード16で「先生が小豆洗い!」っていうのも有り。先生でありながら小豆洗いということもあるかもしれない…!」
永野「なるほどー!」
上田「それいいの(笑)?」
永野「それはすごく演じ甲斐があるというかおいしいです!」
上田「わかりました、じゃあ先生寄りにするかもしれないです」
永野「お!こういう取材でね、夢が叶ったり叶わなかったりってこともあるんですよ(笑)」
上田「でも転校生の餓鬼にする可能性もありますから」
永野「餓鬼!?」
一同笑
ーー中川さんの役のイメージは?
上田「中川さんは、ヨーロッパ企画の中で体育教師の役をやることが多いんですよ。そのイメージがなんとなく強いので、体育教師かなー?は今のところ思っています」
ーー中川さん自身は永野さんのように「こんな役がやりたい!」ってありますか?
中川「乱暴な体育教師の役を何回かやっているんですけど、僕好きな役なのでそれで全然OKだなと思っています」
上田「でも、最初から妖怪ではなくても途中で霊障(れいしょう)に遭うかもしれないです。例えば腕に人の顔ができてしまったとか、頭が腫れてきてしまうとか。途中から祟り強くなってきて「先生頭おっきくなってますよ」とかね」
中川「そうか…みんなただではおかないって?」
上田「っていうのはありますね」
永野「じゃあ登場人物みんな(妖怪になったり霊障に遭ったりってことが)あり得るかもしれないんだね」
驚かした後の時間を活かすのが演劇の文法
ーー上田さんご自身は理系で、あまり怪奇現象は信じていないんですよね?
上田「うーん。話を聞いたり、今回のストーリーを考えるにあたって調べたりするのは好きなんですけど、霊感みたいなものは全然ないので、信じているかいないかでいうとあんまり信じていないかもしれないです」
ーーそういう中で、今回あえてオカルトというテーマを選んだのはなぜですか?
上田「“77不思議”という言葉はずっと前から面白そうだなと思っていた中で、劇団として去年で20周年が終わって、21年目でなにかインパクトのある何かを持ってきたいと思った時にこの題材が思いつきました。20年を終えて「ここからまた新しい1歩を」という思いがありまして、演劇であまり取り扱わない題材もやっていきたい思っています。オカルトというか、ホラーって映画はたくさんあるけど、演劇であまり演られないですよね。でもお化け屋敷に行くときみたいなドキドキした感覚で劇場に座っているのも面白いかなと思って」
ーー今あまり演劇では演られないって話もあった通り、映画とは異なった見せ方、怖がらせ方のが必要になると思いますが、どんなアイディアをお持ちですか?
上田「一つが“コメディ”ですね。ホラー映画を観たり小説も読んだりしながら、怖くするにはどうしたらいいか色々考えたんですが、演劇ってやっぱり遠いんですよね。お化けが出てきてわあ!っていうのを、目の前で見るのと、客席から舞台の距離感で見るのは全然違うんで、迫力を出すのは難しい」
ーーそれを逆にコメディにしてしまおうと。
上田「コメディに落とし込めるだろうなと思いました。あと、ホラー映画や小説って結構人がぞんざいに死ぬんですよ。冒頭でうわーって襲われたと思ったらシーンが切り替わって「あいつ死んだらしいよ」みたいな扱われ方は映画や小説ならではなんです。演劇は役者が毎日劇場にくるんで、あんまり登場をおろそかにするわけにいかなくて。1分しか出ない役者って映画ではあり得るんですけど、演劇ではあんまりない。その人毎日来るんでね(笑)」
ーーでは、いかに登場人物を生かしながら話を展開させていくかというのも、こういう題材を演劇で扱う面白さになってくるわけですね。
上田「そこは面白い戦いになると思っています。例えば「生徒:先生先生、のっぺらぼうが出た!」、「先生:のっぺらぼうって、こういう顔ですか?」、「生徒:わー」っていうのがあるとして、そののっぺらぼう役の人はそれだけで終わるわけにはいかなくて、その後ののっぺらぼうとしての人生が続いていかないといけない。いわゆるホラー映画のように人をガンガン殺すことはできないからこそ、驚かした後の時間を活かしていくのが演劇の文法だなと思っています。落武者が出てきて「わっ!」と驚いた後、落武者との交流が始まったりね(笑)」
怖さと、懐かしさやノスタルジー、好奇心をいかにいいバランスにするか
ーー上田さん自身もこのテーマを演劇でどう扱おうか試行錯誤してる段階だと思うのですが、演じる側として演劇でオカルトをやると聞いた時は最初どう思われましたか?
永野「喉が枯れるんじゃないかと思いました」
ーー絶叫して?
永野「そう。今回41公演あって、ツアー後半からは体調管理だけの世界というか、メンタルの大半を体調管理に回すことになるかなと。多分リアクションする側になるだろうなと思っていたので、新鮮な「ギョエー」をどうこなしてくかというのは頭に過ぎりましたね」
上田「永野さん、前回も「サマータイムマシン・ブルース」で「ギエー」ってセリフがあって、それで喉潰してたんですよ」
永野「「ギエー」とか「ギョエー」は枯れるんです。だからちょっと対策を…」
上田「今回「ギョエー」に関しては録音になる可能性もあります」
永野「!?」
ーーそれはそれで面白そうですね!ラジオでパーソナリティが自分で喋りながら事前録音したツッコミ音声をボタン操作で鳴らす、あのイメージですか?
上田「そう、面白いですよね!しかも、お客さんも叫び声めっちゃ聞くのしんどいと思うんですけど、そのシステムを導入すれば負担減るんかなと」
永野「あ〜、これでちょっと安心です」
ーー中川さんはどうですか?
中川「うーん、オカルト青春コメディと言ったときにお客さんが怖いからって拒否反応を示す人もいるだろうなって、そこはちょっと心配はしています」
永野「ホラー好きな人もいるだろうし両方だよね」
上田「そう、それ本当にわかんないんですよ」
ーー実は私もあまりお化け屋敷の類は好きではない側の人間なんです。だから中川さんの言うように、このキャッチコピーだけで拒否までいかなくても、そそられない人も確かにいると思います。ですが、そこはあくまで“青春コメディ”ということで、きっと結果的には笑えるものになるんですよね?
上田「そうですね。でも僕も全然お化け屋敷好きじゃなくて入りたくないし、ホラー映画も今回こういうテーマになるまで観なかったくらいの感じなんです。でも調べていくと、ホラーや怪談、都市伝説って色々ジャンルがあって、どれも怖がらせ方や禍々しさが違うんですよ。例えばスプラッタのように見るに堪えないものもあれば、「ドンッ!」って思いがけないところから驚かされる怖さもあり、怪談のようにぞわぞわっとした怖さもある。そういう怖さの種類が色々ある中でも、学校の七不思議は一番怖くないかなって。もっと怖いやつあるじゃないですか」
中川「「リング」とかね」
上田「そう。それに比べたら、学校の七不思議なんて人体模型が走るとかそのレベルですから」
中川「トイレの花子さんとかね」
上田「まあ、トイレの花子さんはちょっと怖いけど」
中川「それは怖いんだ(笑)」
一同笑
ーー確かに学校の七不思議なら、誰もが知っている馴染みの話も多いですよね。元ネタを知っているからこそ、突拍子もない恐怖ではなく、むしろ懐かしい気持ちになるかもしれないですね。
上田「そうだと思います。怖くないですよっていうのは変な話ですけど、とにかく怖がらせようってんなら、いくらでも怖がらせることはできちゃうと思うんですよ。でも怖さの他に、学校の七不思議の持つ懐かしさやノスタルジー、好奇心をいかにいいバランスにするかが重要で、だからこそ僕らがホラーをやるのにちょうどいい題材な気がしています」
永野「実際に怖い演出や雰囲気は作るの?」
上田「うーん、舞台は結構怖いかもしれないです。でもその中でちゃんと青春のきらめきも描きます。オカルト青春コメディなんで!」
ふざけてんなって思われたらいいな
ーーいよいよ、これから稽古ということで、意気込みをお願いします。
永野「20周年を越えて自分もリスタートな気持ちがあるし、そういう雰囲気を上田も作ってくれて、すごく楽しみです。オカルトっていう題材だけどかしこまっていなくて、ふざけやすくてめちゃめちゃ笑える稽古場になるだろうと思うので、今までにないトキメキがあります」
中川「21年目どうするかとなったときに、タイトルに「ギョエー」をつけたというのが、まさにふざけていいよってことだとすごく感じているんで、ふざけてんなって思われたらいいなと思います」
上田「タイトルについては、最初「旧校舎の77不思議」ってタイトルにしようと思っていて、最終的に「ギョエー」をつけるか役者メンバー8人にアンケートをとったんですよ。そうしたら8:0で「ギョエー」ありだったので「ああ、息のあった劇団だな」と思いました」
中川「みんなふざけたかったんだよ(笑)」
ーー20周年で集大成といえるものが出来たからこそなのか、みなさんニュートラルなモードというか、伸び伸びしている感じがしますね。
永野「すごく開放感があったんですよね、コメディに」
ーー永野さん、満面の笑みですね。
永野「そう、だって神経質にやっても仕方ないと思うし」
上田「結構、役者同士の戦いというか仕掛け合いみたいなこともあるかもしれないですね」
ーー役者さん同士も、作演出家対役者の戦いも楽しみです。
上田「そうですね。「ビルのゲーツ」が僕が40フロア分用意した話に、ビルを登る役者がぶつかっていくという構造で、作演出家対役者の戦いがはっきり現れていて分かりやすかったと思うんですけど、今回もそういう感じになると思います。僕は色々仕掛けていくので、役者はなるべくそれに対抗してきてほしいです。そう、怖がってばかりじゃなくて、学校は授業をしないといけないんでね!」
インタビュー・文:岡部瑞希
(8月30日更新)